栗山監督、10年以上見てきた私が驚いた「言葉の力」 日本ハムでもWBCでも共に過ごした捕手が明かす
10年以上見てきて、栗山監督がとても厳しく接する選手はあまりいませんでした。私の記憶の中では、吉川投手、大谷翔平選手、清宮幸太郎選手の3人ぐらいです。メディアに何度もこう語っていました。
「今年、吉川光夫がダメだったら、私が彼のユニフォームを脱がせます」
選手は、メディアを通して監督の発言を絶対見聞きするものです。それが期待の言葉か、嫌味の言葉か、監督の話し方やニュアンスで選手は敏感に察知します。
あの2012年、プロ入り2年目の開幕投手・斎藤佑樹投手が6月までに5勝を挙げました。同い年の吉川投手は華やかな斎藤投手の陰に隠れていましたが、開幕先発ローテーションの3番手に入ったのです。シーズン初戦、黒星ながら1失点と好投。それがきっかけで自信を持って、何の迷いもなく腕が振れるようになりました。5年ぶりの勝利で波に乗り、セ・パ交流戦で4勝するなど、あとはトントン拍子でした。
左腕から繰り出すMAX150キロ超のストレート、140キロのスライダー、大きく縦に割れる130キロのカーブ……。受けていてまったく打たれる気がしませんでした。
栗山監督の「言葉の力」
それでも栗山監督は吉川投手に「まだまだ、お前の力はそんなものじゃない」という言葉をずっとかけていました。そういう選手を奮い立たせる「言葉の力」が、栗山監督にあったと思います。キャスターをやっていただけあって、そのあたりはさすがです。
相手の性格を見て、言葉をかけるタイミングも絶妙でした。出てくる選手というのは、ほうっておいてもいずれは第一線に出てくるでしょう。ただ、言葉かけにより成長速度は上がります。潜在能力を顕在化させる成長曲線は急カーブを描くと思います。
大谷翔平選手には「絶対にほめない」と、最初から決めていたに違いありません。ほめることで伸びる選手もいる一方で、ほめた時点で無限の可能性を秘めた選手の「限界を決める」「伸びしろを否定する」ことになってしまいかねません。ほめられた本人が「こんなものでいいか」と感じてしまうと思うのです。
大谷選手が「投打二刀流」をこなし始めたときでも、「165キロを投げた」ときでも、決して称賛はしませんでした。実際は誰が見ても凄いです。栗山監督の「まだこんなものじゃない」の言葉によって、世間が考える大谷選手のパフォーマンスの上限を取り払い、大谷選手がその期待に応える。その構図を栗山監督が作ったような気がします。
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