川島:培養手法そのものが、この世に存在しないものだったのでリスクもありました。もともと調達していた資金だけだと、研究開発で取り得る選択肢がかなり限られてしまう。
幸い、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業に採択されたので、最適な手法を用いて社会実装に結び付けるという戦略が取れました。予算がなければ手法を一本に絞って挑戦せざるをえませんでしたが、NEDOのおかげで、いくつか複合的な試験をして最適解を得ることができました。
それに、この助成事業のおかげで生産拠点を整備することができたんです。その生産拠点が、次の資金調達や次の企業連携の必須条件だったので、助成がなかったら丸々、遅れていたんじゃないのかな。この意味でもすごくインパクトが大きかった。
世界的にも画期的な政府の資金投入
羽生:もう一つあります。海外からの見え方というのがすごく大きい。NEDOの助成事業の金額が2億〜3億円だったのですが、当時、国の政府機関が培養肉の研究にお金を入れることは世界的にも画期的でした。
アメリカも2021年になって初めて何ミリオンドル(=数億円)入れたとか、そんなレベルなんですよね。なので、日本は2018年に未来社会創造事業で数億円、さらにNEDO PCA(研究開発型スタートアップ)で2020年に数億円と世界に3年も先駆けていた。
海外の細胞農業の団体でも「日本は本気で取り組んでいる」と報じられ、社会的な正当性が高まった。
井上:確かに装置ができると説得力が違いますよね。この装置から価値を生み出すビジネスモデルについてもお聞かせいただけますか。
羽生:ビジネスモデルというのは、経済合理性の観点から見たときの社会実装のあり方だと考えています。われわれの場合、ビジョンを実現するために、いろんな方法の中で経済的に帳尻の合うものは何か。つまり、CulNetシステムの普及を目指していくうえで一番最適なモデルは何かを考えています。
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