日本発の人工靭帯を世界展開する最大のハードル CoreTissue BioEngineeringが求める大企業の力

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実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問う。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。

アスリートがケガしがちな膝の靱帯を人工靭帯で再建(CTBE社提供)
メジャーリーガー大谷翔平選手が、輝かしい戦績で今シーズンを早期に終える可能性が高まった。野球の世界にGAFAなるものが存在するとすれば、彼の活躍はそれに匹敵するものだろう。かつての日本の栄光を知りつつ失われた30年を嘆くビジネスパーソンたちも、日本人の活躍は爽快に感じているはずだ。
日本のプロ野球からメジャーリーグへのキャリアパスも確立されたように思う。しかし、これは最初からあったわけではない、トルネード投法で有名な野茂英雄投手が切り開いた道があって、その後に大活躍する選手が続いたともいえる。
ひるがえってビジネスの世界はどうだろうか。なぜ、メジャー級のスタートアップが日本から生まれてこなかったのか。もしかすると、日本のプロ野球の役割を果たすような「器」(価値を高めてくれるファイナンスと市場)が十分でないのかもしれない。
高校球児がいきなりメジャーに挑戦しても、成功する確率は低いと言われる。日本のプロ野球で大きく育つからこそメジャーに挑戦できるレベルに達し、GAFA級の英雄が生まれる。ディープテックスタートアップにとっての「器」とは何か。
他に類を見ない技術で世界に挑むCoreTissue BioEngineering株式会社の代表取締役会長の城倉洋二さんと社長の和氣千明さんにお話を伺った。

井上:アスリートの困りごとを解決する医療機器を開発していると伺っています。

城倉:アマチュア含めたスポーツアスリートがよく損傷してしまう膝前十字靭帯を再建する医療機器を開発しています。

現在の世界的な標準治療では、患者さん自身のハムストリング腱、つまり太もも裏の腱を取り、それを再建用組織に加工し、患者さんの膝に移植をする方法が行われています。手術後、患者さんは平均8〜12カ月で競技復帰できます。

ただ、これは患者さんの健康な組織を取って治療するので理想的とは言えません。われわれは、ウシの腱から生体組織由来の人工靭帯を作って患者さんの再建手術に提供します。

移植のカギは免疫細胞の除去

井上:動物の腱を人間に移植して大丈夫なんでしょうか。

城倉:動物の組織を人に植え込むと、免疫反応で拒絶されたり炎症反応を起こしたりするので、免疫源となる細胞成分を完全に取り除く必要があります。これを脱細胞といいますが、これによって組織の構造を維持したまま人に移植することができるようになります。

アイデア自体は20年くらい前からあったのですが、腱のような太く厚い組織から脱細胞したり、滅菌したりするのが難しかったんです。加熱処理しても、放射線を当てても、組織が傷んでしまう。

早稲田大学の岩﨑清隆教授が、組織の構造を維持したまま滅菌できる技術を開発しました。ウシの腱を凍結乾燥させてエチレンオキサイドガス滅菌するのです。

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