日本発の人工靭帯を世界展開する最大のハードル CoreTissue BioEngineeringが求める大企業の力

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和氣:医療機器のスタートアップを日本でIPOをするのは、ハードルが高いと感じます。

日本の場合、製品や技術を適正な評価するのではなく、国内の平均的なところや過去の事例を見てお話しをされているので、「過去の事例ではそんな額に達していない」と言われるんですね。

しかし、われわれのものは過去の技術とは違います。イノベーションを実現しようとしているのに、過去のものと同じ扱いをされるのは納得がいかないですね。

われわれの類似企業はアメリカに行けば400億円以上で売却されている事例があるのに、なぜ100億円以内に抑えなければならないのかと疑問に感じます。わざわざ日本に留まってイグジットする必要はないですよね。

また、医療機器というのは、医薬品とは違って市場で拡大させるためには使い方を説明しながら病院に導入していく必要がある。だから、世の中に出したから急に売れるわけではなく、じわじわと世の中に定着していく。

城倉:だから、すでに市場にアクセスできる大企業に協力してもらって浸透させた方が速度が速まります。そういった意味でも、自社でやるよりも大企業と一緒にやる方がいい。すぐに投資を回収できるし、世の中にも早く広められる。

事業目標は、日本発の技術でグローバルに展開することです。脱細胞化した生体由来の組織を用いた植え込み型治療機器を、日本から発信することなんです。

井上:日本発の医療機器の普及に向けて頑張ってください。

CoreTissue BioEngineering 設立:2016年11月 所在地:神奈川県横浜市鶴見区 資本金:1億円 従業員:10名 投資ラウンド:シリーズA完了(2023年1月)

経営学者・井上達彦の眼

アメリカのトップジャーナル『Administrative Science Quarterly』に掲載された論文に「サメと泳ぐ:テックベンチャーの防御と関係構築」というタイトルを掲げたものがある。

経営資源に乏しいテック系ベンチャーは大企業の支援を受けながら成長しなければならないが、その一方で、自社の大切な技術を守る術がなければ、技術を大企業に横領されてしまう。このジレンマにいかに向き合えばいいのか。サメに喩えられる大企業の支援を受けながら、一方的に搾取されないように泳ぐにはどうすればよいのか。

基本的には知財化すべき技術は特許にして法律で守る。ブラックボックスとして秘匿すべきものは隠し通す。その上で互いにWin-Winになる関係構築をすべきだと記されている。

この論文で面白いのは、ベンチャーは必ずしも弱い立場にあるわけではないという点だ。大企業に対してノウハウや技術を開示するにあたって、タイミングをうまく見計らい(ときに意図的に「遅れ」をつくって)、売却やM&Aの交渉を有利に進めることができると主張されている。

今回取材したCoreTissue BioEngineeringは、知財化すべき技術について特許を取得し、秘密のレシピの部分はしっかりと秘匿している。その上で、大企業にもメリットになるようなM&Aをオファーしている。

しかし、国内の市場の評価は十分ではなく、また海外の市場では正当に評価されない。同社の技術が野球で言うメジャー級であったとしても、それに注目しているのは海外でも一部の先進企業のみである。

野茂英雄は苦労しながらも自らをメジャーリーグで売り込み、実績を示した。これによって日米の市場に一体性が生まれ、選手を評価する市場の完備性が高まった。彼がメジャーで信頼を勝ち取ったように、CoreTissue BioEngineeringも新たな道を切り開いてほしい。

井上達彦教授がディープテック16社を訪ね、ビジネスモデルをとことん問う連載記事はこちらから
井上 達彦 早稲田大学商学学術院教授

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いのうえ たつひこ / Tatsuhiko Inoue

1968年兵庫県生まれ。92年横浜国立大学経営学部卒業、97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授などを経て、2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。「起業家養成講座Ⅱ」「ビジネスモデル・デザイン」などを担当。主な著書に『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)、『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』(日経BP社)などがある。

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