培養肉のディープテックがSFを後押しするワケ インテグリカルチャーは新たな食文化を作る

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実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問う。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。

細胞培養でつくったフォアグラ(インテグリカルチャー提供)
牛肉の値段はスーパーの表示価格だけでは計り知れない。地球環境に照らし合わせると、牛肉1kgを生産するのに必要なとうもろこしは11kgだと言われる。これを必要な水資源に換算すると2万リットルにも達するので、地球が表示する価格は恐ろしい金額になる。
再生医療の技術を活かして人工的に肉や農作物を量産できれば、環境負荷を減らして効率的にタンパク源を生み出すことができる。インテグリカルチャー株式会社の試算によれば、同社の細胞培養技術CulNetシステムが社会実装されれば、環境への負荷を最小限に抑えつつ、牛肉1kgを200円で作れるそうだ。
しかし、これを広く社会に普及させるためには、いくつもの壁を突き破る必要がある。正当性を確保できなければ、同社が掲げる「食文化であふれる、持続可能な世界」を創り上げることはできない。
共同創業者の羽生雄毅さんと川島一公さんは、いかにしてこれを進めようとしているのか。

井上:御社は人工肉に代表される細胞培養ビジネスをされていますが、エコシステム構築にも取り組んでおられますね。

羽生:細胞培養での食料生産は、科学技術の観点以外にも、政治経済の観点、人文芸術の観点など多方面に及びます。経済の論理だけで推し進めても健全な形にならないと感じたので、グローバルに発達してきたバイオエコシステムも参考にしつつ、国内でもエコシステムを作るべきだと思いました。

大まかにいうと、3つの機関と団体で多面的に進めています。 その最も尖った部分はShojinmeat Projectという有志団体で、同人誌の売り上げなどで運営されています。

DIYで細胞肉、ウェブで生中継

井上:Shojinmeat Projectは「バイオ技術の研究開発と細胞農業の社会コミュニケーション活動を特定の大学や企業に属さない立場で行う、市民科学の有志団体」と紹介されています。

羽生:もともと社会人としての常識が大嫌いで、当時の2ちゃんねるで10代を過ごして人格ができちゃったんです(笑)。培養肉に取り組み始めたときも「DIYで培養肉ができたら面白いな」と思って、言うなれば、細胞培養のビットコインみたいなものを目指しました。

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