実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問うてゆく。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。
全知全能の神によるユートピア。EAGLYS(イーグリス)が目指すのはそういった世界なのかもしれない。
同社を率いる今林広樹さんはAIという名の神を作り、社会問題を解決することで人類に幸せをもたらそうとする。
たとえば、振り込め詐欺を防ぐ試みである。現在、それぞれの銀行では、振り込め詐欺を防ぐべく懸命の努力がなされている。しかし、それぞれの銀行が有する情報が不完備であるため、予測精度は高まらず詐欺を食い止めることができない。
もし、すべての銀行がその情報を持ち寄って相互に補うことができれば、詐欺対策は強化されるはずだ。
ところが、「個人情報の保護」との両立は難しい。各銀行のデータを統合して解析するには、セキュリティを保持したままAI解析しなければならないからだ。断片的に存在するデータを集めて完全情報のデータベースを構築するにはどうすればよいのか。
同社の答えは、「秘密計算」×「AI」である。EAGLYSはこの問題を解決し、さまざまな社会課題を解決するインフラを築き上げることで世界に打って出る。
井上:今林さんは「データの錬金術師」だと伺いました。
今林:一般的に、データは宝だと言われますが、必ずしも価値を生み出せているわけではありません。われわれは、データの機密性を保ちながらAIで解析することでその価値を顕在化します。いわばデータからの錬金術です。
秘密のデータから価値を生む
井上:一般に、なぜデータから価値を生み出すのが難しいのでしょうか。
今林:そこは重要なポイントで、最も大きな理由は、そのデータに価値があっても、秘匿性があるがゆえに外部とは共有されにくいからです。
井上:それを御社はどのように解消するのでしょうか。
今林:例えば、「特定の実験条件において、化合物と触媒によって新素材ができる」というデータは、ケミカル会社にとって貴重な知財となります。みなが欲しがるのですが、世に出回らないので正当な価値がつきません。
われわれは、このようなデータを共有することで価値を創造します。プラットフォームで共有し、AIで解析して価値に変えていきます。
それを可能にするのが秘密計算です。
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