今林:通常、zipファイルとして暗号化した場合、相手にパスワードを知らせる必要があります。相手方はそのパスワードを開けてファイルを解凍し、中身を見て分析します。
でも、われわれの秘密計算の技術を使えば、相手方はその中身を解凍することなしに解析できる。パスワードを知らせる必要がなくなるんです。
まず、各種プログラミング言語で解析のアルゴリズムを組みます。そのソースコードに暗号化されたファイルをそのまま読み込ませても解析ができるのです。自分の大切な情報を開示することなく、相手はそのデータを使えるわけです。
井上:それは凄いですね。秘密計算というコンセプトは最近生まれたものなのでしょうか。
圧倒的なスピード、AIへの最適化
今林:コンセプト自体は1980年ぐらいにはありましたが、なかなか実用化が進まなかった。2009年にブレイクスルーとなる論文がスタンフォード大学で出されて転機となりました。暗号化した状態で解析をスムーズに行うという活路が見いだされたのです。
その後、アメリカでは助成金も出され、 Google、マイクロソフト、インテルといった巨大企業が積極的に投資をして巨額のお金が集まり、実用化され始めました。2016年ぐらいに海外のベンチャー企業が生まれました。われわれの創業も2016年だったので、彼らと同じ時期にスタートを切っています。
井上:絶妙のタイミングですね。しかし強豪ぞろいの中で勝ち抜いていけるのでしょうか。
今林:技術面での強みと、ビジネス面での強みがあるので大丈夫です(笑)。
われわれの技術的な強みは、圧倒的な処理スピードにあります。
暗号化というのは、イメージとしては10の文字の長さを100万倍に拡大して、その中に10の大切な情報を隠すことをします。暗号化によって安全性は高まるのですが、データが肥大化するので、データセンターに貯蔵して大型コンピュータで処理しなければなりません。
スマートフォンはおろか、パソコンでも扱えないようなものになってしまう。これが従来の課題、秘密計算の課題だったんです。
われわれはそのデータをガッと圧縮するんですよ。イメージとしてはzipに近いのですが、これによって一般的なパソコンでも計算スピードを高めることができる。
井上:圧縮することで犠牲になるものはないのでしょうか。
今林:本来、暗号化すると例えば1000万の長さに1の機密情報しか詰め込めないのですが、1万詰め込めるようにしました。この技術で、より多くのメッセージを、より少ない暗号文でパッキングできます。
例えて言えば、今まで1個1個の情報を、1つずつ梱包パッケージして送っていたのですが、1つの段ボールに情報をたくさん入れてパッキングして送るようにした。厳密には圧縮というよりも、1つあたりの数を増やしてセキュリティを担保しつつ、同時並行で処理ができるようにしました。
井上:他社が真似できないのはどうしてですか。
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