培養肉のディープテックがSFを後押しするワケ インテグリカルチャーは新たな食文化を作る

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羽生:そして最終形態は、家庭やレストラン、あちこちで細胞を作るレシピが創られる世界です。

クックパッドのウェブサイトには、いろいろな人が作ったレシピが溜まってますよね。そのレシピを使って、自動的に料理を作る調理ロボットが動いているような感じです。

誰かがレシピのプロトコルを作ったら、それをうちのサーバーにアップロードして、それが売れたらレシピを作った人にお金が行く。App Storeを備えたAppleのプラットフォームのようなものです。

ただし、衛生環境が整っていないところで製造販売されないかなど、法制度の整備状況をにらみながらにはなります。

井上:なるほど、冒頭でご紹介いただいた、3つのエコシステムを作りつつ、ビジネスモデルを進化させる構想というのは大胆ですね。細胞培養のオープンプラットフォーム目指して頑張ってください。

インテグリカルチャー 設立:2015年 所在地:東京都文京区 資本金:1億円 社員数:28名(2023年7月末時点)投資ラウンド:シリーズB

経営学者・井上達彦の眼

インテグリカルチャーのような研究開発型のスタートアップが社会で広く認められるには、3つの壁を乗り越える必要があると言われる。
1つめが技術コンセプトの妥当性を認めてもらうときの壁、2つめが社会実装して商業化する壁、そして3つめが事業として成長してスケールする壁である。
難しいのは、これらの3つの壁のそれぞれで、打ち破るときに説得する相手も違えば、準備すべきエビデンス(証拠)の性質も違うということだ。
1つめの壁では研究者コミュニティーや助成金管理者に向けて、科学的なエビデンスを示す必要がある。2つめの壁ではエンジェル投資家やベンチャーキャピタリストに向けて製品・サービスをもとに成長性を示さなければならない。そして3つめの壁では上場企業を対象にした機関投資家たちに、業績を持って成長性と安定性を示す必要がある。
インテグリカルチャーは卓越したアイデアによってNEDOの助成金を獲得することで第一の壁を突破し、商業化のステージに進んでいる。今後、化粧品メーカーや食品メーカーとの協業によって実績を上げて成長性への期待を高め、事業資金を集めていくことになるであろう。
興味深いのは、商業化から成長にむけたステージにおいて、ビジネスモデルを変態させようとしている点である。
第1世代は法人を相手にした製造販売モデル、第2世代はサービスや消耗品補充を組み込んだ設置ベースモデル、そして第3世代はサードパーティーがレシピを提供するという補完財プラットフォームモデルという構想だ。
また、アメリカのイノベーションエコシステムと同様に、日本でも社会に広く認知してもらうための文化的活動や、正当な評価を得るための学術的な啓蒙活動も行っている。
「タンパク源不足問題」は、今後われわれが間違いなく直面する人類的な課題である。細胞農業が一般的になり、培養肉が食卓に並ぶまでには歳月を要するかもしれないが、現在の高い志をもって突き進み、社会からの正当性を勝ち取ってほしい。
井上達彦教授がディープテック16社を訪ね、ビジネスモデルをとことん問う連載記事はこちらから
井上 達彦 早稲田大学商学学術院教授

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いのうえ たつひこ / Tatsuhiko Inoue

1968年兵庫県生まれ。92年横浜国立大学経営学部卒業、97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授などを経て、2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。「起業家養成講座Ⅱ」「ビジネスモデル・デザイン」などを担当。主な著書に『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)、『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』(日経BP社)などがある。

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