日本発の人工靭帯を世界展開する最大のハードル CoreTissue BioEngineeringが求める大企業の力

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井上:実践を通じて仮説を検証するというのは素晴らしいですね。その仮説はどのようなものなのでしょうか。

和氣:技術の社会的な受け皿が十分でないという仮説です。

医療機器メーカーの世界トップ20の中に日本企業は2社しかランクインしておらず、米欧の医療機器メーカーばかりです。なぜ彼らが成功しているのかというと、いろいろなスタートアップから技術を買って会社を大きくしているんです。彼らもかつては自社で開発して販売していたのですが、 上手にM&Aするようになった。

日本では社内開発が重んじられます。大企業だとリスクに敏感で決断に時間がかかるので、画期的な製品がタイムリーに生まれてきません。大企業がスタートアップの技術を適切な価格で高額で買い取ってくれればうまくいくのですが、なかなか難しいようです。

スタートアップとしては、開発した技術を売却できないのでイグジットプランが進まない。技術がM&A市場で評価されないと企業価値も高まらず、VC(ベンチャーキャピタル)からの出資も進まない。

イグジットの課題を実感

井上:なるほど、M&Aの市場が活発でないと、資金調達にも響くわけですね。それで仮説の結果はどうでしたか。

和氣:この世界に入ってみてそれを実感しています。今苦労しているのはイグジットのところですね。

医療機器を扱ってきた経験から「これだけの価値があるものだ」と伝えても適切な価格で検討いただけないのです。日本にはそれだけの器がないので、会社の価値づけもなかなか上がらない。100億円という数字すらなかなか出てこない。

一方、アメリカの市場だと、医療機器でも300億~400億円での買収は当たり前の世界です。最近も、われわれが開発しているものと類似した製品のスタートアップが400億円ぐらいでM&Aされました。

しかし日本は医療機器、特に治療機器の分野が弱い。国内の大企業はアメリカの企業のようにはお金を出してくれない。仮に100億円という値段しかつかなければ、その枠の中で開発費用も全部含めてやっていく必要があります。投資も大胆にはできないですし、狙える市場も限られてしまうんですよね。だからイグジットが難しくなるのです。

われわれの製品はアメリカでもヨーロッパでもニーズのある製品なので、グローバルに展開すべきだ思っています。ところが、そのグローバル展開に協力をしてくださる企業が日本にはなかなかいないということなんです。

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