日本発の人工靭帯を世界展開する最大のハードル CoreTissue BioEngineeringが求める大企業の力

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井上:エチレンオキサイドガス滅菌させるのに乾燥させる必要があるのはわかりますが、乾燥させた組織をどうやって復元するんですか。

城倉:アフリカの乾燥地帯で雨が降るのが3年ぶりでも、仮死状態から生き返る蚊の幼虫がいます。ネムリユスリカといいますが、特殊な糖を保持しているため、乾燥しても構造が保たれているんです。

そこにヒントを得て、その糖の入った液体に浸してから凍結乾燥という方法で乾燥させました。ウシの腱を取ってきて脱細胞化して乾燥、滅菌して病院に出荷します。手術前に生理食塩水に浸して加工すれば膝に植え込めます。

井上:素晴らしい技術ですね。岩﨑先生は現在は創業者兼最高技術顧問というお立場です。また、城倉さんと和氣さんは経営者の立場として、この技術の社会実装の実現に向けて尽力されていますね。

日本の技術を生かした医療機器を作る

城倉洋二CoreTissue BioEngineering会長
城倉洋二(じょうくら・ようじ)/ 1985年花王入社。日本ガイダント、ボストン・サイエンティフィック、Cook Japanを経て2018年にCoreTissue BioEngineering株式会社代表取締役社長。2022年6月より代表取締役会長(CTBE社提供)

城倉:私は、新卒で花王でお世話になった後、外資系の医療機器3社で経験を積みました。その時に感じたのが「治療用の医療機器はアメリカのデバイスばかりじゃないか」という事実でした。

なんとか日本の技術を生かした治療用の医療機器が作れないものかと思っていたのですが、岩﨑教授から声がかかり、「これはキャリアを懸ける価値がある」と思いました。当時の報酬は外資系企業の部長職のためそれなりでしたが、それを捨てて2018年に社長に就任しました。

まず、膝前十字靭帯損傷、その次は肩腱板断裂の治療機器に取り組みました。成分はどちらもコラーゲンで基本的には同じです。肩腱板断裂の患者さんは、農業や林業、工場や建設現場で働いている方など肉体労働されている方です。肩が上がらず痛みも伴い、作業ができなくなるので仕事を辞めざるを得ないこともあります。

井上:まさに深刻な問題ですね。膝や肩に応用できるとすれば、他にもさまざまな可能性が広がりそうです。

城倉:そうですね。たとえば心臓の血管や、下肢の動脈などが考えられます。下肢の動脈が痛んだ場合、患者さんの健康な血管を採取して手術に使うため、取らないですむ医療機器の開発に岩﨑教授が取り組んでいます。

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