EVの急速充電規格争い「テスラ勝利」に大反論 日本発「チャデモ」のキーマンが語る勝敗の行方

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――CCS規格を牽引してきた欧米メーカーがテスラ規格を採用し、日本発のチャデモ規格は選ばれませんでした。北米でのチャデモ規格はどうなるのでしょうか。

別にチャデモの状況が変わったわけではないし、損害が発生するわけでもない。チャデモは規格を売って儲けるわけではなく、日本の自動車メーカーが勝つように世界各地に仕向けるわけでもない。EVのバッテリーが高いという問題を解決するために、急速充電だけでなく放電を含む仕組みを便利で安全に提供しようとこれまで活動しようとしてきた。

チャデモは、無料で使える安全・確実に充電できる技術だから「ノウハウを提供して使いませんか」と電力会社といったインフラ側から提案していきたい。充電インフラになると、アメリカの電力の送配電会社が責任を持ってやるべきではないかと思う。彼らも慈善事業ではないため、それなりに苦労するわけだが、今後はEVが再生可能なエネルギー源にもなる。ますます電力会社が果たすべき役割が大きい。

――チャデモはCCSやNACSは競合しないということでしょうか。

ネットでみると、「北米ではいよいよテスラがチャデモを撃退し、日本がガラパゴス化する」とか書かれている。我々は別に規格を販売して儲けている営利団体ではなく非営利集団だ。

あねがわ・たかふみ/1983年東京電力入社。2010年に急速充電普及のためCHAdeMO協議会を立ち上げる。東京電力の常務取締役原子力立地本部長や経営技術戦略研究所長を経て、2019年からCHAdeMO協議会会長(写真:本人提供)

NACSには「プラグアンドチャージ」という充電器をEVにつなげるとすぐに充電できる仕組みがある。NACSを採用した場合、自社の顧客情報をテスラに渡さなければいけなくなる。そんなことはできないだろう。この仕組みを入れたところで、儲かるわけではない。チャデモには「プラグアンドチャージ」はないので、そうした顧客情報の問題はない。

高額なリチウムイオン電池を大量に載せるという考え方からシフトしないとEVの事業性は成立しない。自動車としての機能だけで高額なバッテリーを使うのは高い。チャデモでは放電もできるV2H(ビークル・ツー・ホーム)に対応しているのが特長だ。EVを蓄電池としても使うことで、事業性を確保する道が開ける。

EVで収益性を確保しているのは米中2社だけ

――そもそもなぜ充電規格による違いがあるのでしょうか。

2010年に日系自動車メーカーと電力会社によってチャデモ協議会が発足し、チャデモ規格が作られた。チャデモの設計思想は、複数の自動車メーカーのEVと充電器メーカーの充電器が世の中に混在する社会が来ることを念頭に、違うメーカー同士で通信できるように規格が作られている。

欧米でもチャデモの普及活動をしているが、ハイブリッド車のようにチャデモが日本発の技術として普及することに危機感を覚えた欧米では、チャデモへの対抗馬としてCCSを作った。

――現在のEV市場をどう見ていますか。

EVで収益性を確保するのは、それなりの苦労が必要だ。世界中の自動車メーカーでそれができているのは、テスラと中国のBYDの2社だろう。テスラはEV専業で真剣だし、中国はローエンドの一般車もたくさんがあるが、国家戦略で補助金などに馬力をかけている点が違う。

それ以外の自動車メーカーは、ガソリン車のようにEVを売って利益が出るような状態になっておらず四苦八苦している。そのため、富裕層が購入する高価格帯の車種が多い。この10年でバッテリーも安くなったが、むしろ自動車メーカーは安くなった分、電池をたくさん積む競争になっている。それは健全な方向ではない。

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井上 沙耶 東洋経済 記者

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いのうえ さや / Saya Inoue

商用車・部品メーカーを担当。大学時代は写真部に所属し、社会学を中心に学ぶ。趣味は、漫画を読むこと、映画のサントラを聴くこと。

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