ビッグモーター不正が示した「内部通報」の威力 企業の報復を防ぐため通報者の保護強化を

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しかし、サラリーマン経営者であれ、オーナー経営者であれ、経営者がひどい経営をしたら従業員・顧客・取引先・地域社会などさまざまな利害関係者に悪影響が及びます。近年、株主だけでなく、広く利害関係者を意識したガバナンスが求められるようになっています。

日本では、上場企業は3901社(8月10日現在、日本取引所グループ公表)で、全国の企業368万社(「令和3年経済センサス‐活動調査」)の0.1%にすぎません。99.9%を占める非上場企業(オーナー経営者が大半)のガバナンスが、日本では重要かつ未対応の課題と言えます。

社外取締役は解決策にならない

では、非上場企業では、どういうガバナンスが適切でしょうか。現在、上場企業では、社外取締役の設置が義務づけられています。株主の代理人である社外取締役が経営者を監視するという仕組みです。

今回の事件を受けてビッグモーターは、社外取締役を導入することにしました。マスメディアやネットでも、「一定以上の売上高の企業は、非上場であっても社外取締役を義務付けるべきだ」(評論家・杉村太蔵氏)といった意見が出ています。

しかし、社外取締役を非上場企業のガバナンスの主役に据えることに、筆者は懐疑的です。非上場企業の会社数が多く、社外取締役のなり手がまったく不足するという問題もありますが、社外取締役には実効性のあるガバナンスを期待できないからです。

まず、社外取締役は、詳しい内部事情を把握しておらず、会社側から与えられた情報と本人の知識・常識に基づいて取締役会で発言するだけです。一般的に経営者は、自分に不都合な情報を隠そうとします。社外取締役が経営者にとって不都合な情報を入手し、経営者を正すというのは、極めて困難です。

しかも、非上場企業では、社外取締役はオーナー経営者の一存で選任されます。選ばれるのは、たいてい経営者のお友達です。仮に社外取締役が経営者にとって不都合な内部情報を入手したとしても、お友達である経営者を厳しく諫める、場合によっては辞任を迫るというのは、まったく現実的ではありません。

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