日本が調査、ジャワ島鉄道「準高速化」空しい結末 インドネシア政府が白紙化、中国絡む「民活」へ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

8月5日、運輸省鉄道総局は、インドネシア鉄道(KAI)とマレーシア政府間で在来線の時速160km対応に関する協力覚書を締結したと発表した。マレーシア鉄道(KTM)はメーターゲージ(軌間1000mm)で電車の時速160km運転を実現しており、線路条件が近く、在来線高速化の知見を得るには最適と判断されたことは想像にかたくない。

ただ、KTMは現状、自前では技術を持ち合わせておらず、メンテナンスもほとんどを中国中車に丸投げしている状況だ。中国中車はマレーシアに工場(CRRC Kuala Lumpur Maintenance Sdn.Bhd)を置き、時速160km対応の車両をCRRCが製造している。マレーシアとの覚書とはいうものの、実態はCRRCとの技術協力である。KTMの列車本数は極端に少なく、あらゆる運転速度の列車が数分刻みの過密ダイヤで走っているインドネシアとは環境があまりにも異なる。物理的な技術は吸収できたとしても、実際のオペレーションまでできるようになるかは未知数である。

両国ともメリットの少ないプロジェクト

筆者は長らくの間、準高速化事業の日本・インドネシア双方の関係者に聞き取りを行ってきたが、肯定的な意見に出会うことはほぼなかった。とくに日本側にとっては、政府に円借款の金利収入が見込める以外にほとんどメリットがない。

鉄道業界、とくに車両に関してはなおさらだ。2020年9月18日付記事「国が推進『オールジャパン鉄道輸出』悲惨な実態」で記したとおり、日本では電気式気動車は国内需要が少なく、ようやく確立されたばかりの技術であり、まして海外案件に対応できるメーカーがない。ミャンマーの案件では大手メーカーが1社も手を挙げずに、最終的には外国メーカーに頼らざるをえなくなった。しかも今回は時速160km運転対応の高速気動車である。これを政府案件特有の安値受注を承知で入札する企業などない。

INKA発表のジャカルタ―スラバヤ間準高速気動車イメージ
インドネシアの車両メーカー、INKAが発表したジャカルタ―スラバヤ間準高速化向け車両のイメージ(INKA発表資料より)

例外は信号関係で、ATS-Pは先行してジャカルタ首都圏に導入予定であり、そこに乗り入れる準高速鉄道は物理的に統一せざるをえないため、この部分は手堅く日本仕様で揃えられるとみられていた。ただ、それ以外の部分はほぼローカル企業で賄えてしまう分野であり、インドネシア側の予算でカバーすることが検討されていた。全体から見れば、やはり日本側にとっての旨味が少なすぎると見られて当然である。また、環境対応が求められる今に、化石燃料を必要とする非電化新線を、しかも単線で建設するとは時代遅れで、日本にとっても恥ずかしいのではないかという意見すら聞こえた。

インドネシア側からしても、このプロジェクトはあまりにも中途半端であるという声が多い。ジャカルタ―スラバヤ間が5時間半になるとはいえ、圧倒的優位なのは所要時間1時間半の航空機に変わりなく、運賃もほぼ同じか、鉄道のほうが高いくらいである。しかも準高速鉄道は単線運転のため、平均して3時間に1本程度しか走らない。

関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事