台湾出身の元文部官僚が語る「中華」と「中国」 戦前の台湾に生まれて戦後帰国した光田明正氏の体験

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光田さんは今も少年時代に学んだ明治天皇御製の和歌「新高の山のふもとの民草も/しげりまさると聞くぞ嬉しき」を心の支えにしている。また常々、「日本人がしっかりしないと、喜んで自ら日本人となった母や祖先がいたたまれない」と語る。

かつて「一視同仁」として他民族の文化を尊重し、日本人として扱っていた頃を忘れたのか。今の日本人に問いたい光田さんの本音ではないだろうか。

「台湾からの大陸への投資について、『言語が同じ……、親戚がいるから』という報道を見かけることがある。私にとっては理解しにくい説明である。滑稽でさえある。福建語を母語として共有する福建人の親戚がいるとしても、台湾人にとっては、日本統治下の五十年近くを念頭においた場合、それは観念的な、少なくとも四、五世代前に戻っての親戚である。大半は、それよりはるか前の移民の後裔であるから、日本の語感で言う『親戚』にはあたらない。二百年以上前に分岐した者同士も親戚であろうか」(前掲書)

 

また光田さんは、戦前のほとんどの漢民族が日本に反対する「抗日」勢力に属していたにもかかわらず、台湾はこの陣営に加わらなかった。それどころか日本国民として中国大陸や東南アジアに出て行った。そして漢民族としての古い歴史を共有するかもしれないが、1895年の下関条約以降は近代国家の国民として中国大陸の人々とは異なる道を歩んだと述べている。

そして、日本人が見落としがちな、文明は1つだが文化は多様であること。また大きな文明圏と付き合う際にマクロ的に文明圏を貫くものを見出す努力と多様性に目を向ける必要性を訴えている。

中国でも漢族とウイグル族とは違う

例えば中華料理はフランス料理やイタリア料理とは明確に違う。この違いは文明と置き換えることができる。一方で、中華料理の中にも四川料理があり、広東料理があり、浙江料理がある。これらは文化に相当する。

これら多様な文化に通底するものは何か。各文明圏の中核的共通性、その中での多様な文化の独自性の探求が、文明を理解することであり、多様な文化との付き合い方だということだ。

国際情勢が大きく変化する現代において、光田さんが発した1つひとつの言葉と意味をしっかり考えたい。ちょうど2023年4月21日の衆議院千葉5区補欠選挙で自由民主党の英利アルフィヤ氏が当選した。彼女は日本生まれで、ウイグル人の父とウズベキスタン人の母を持つ。そのような経歴にさまざまな声が上がっていたが、光田さんは次のように語った。

「英利氏は完璧な日本語を使う。まぎれもなく日本国民である。しかし、両親より受け継いだ文化があるはずであり、それは日本文化をより豊かにするプラス要素として、社会的働きをすれば、他人にはできない貴重な貢献ができる。素晴らしいことではないかと期待する」という。

また「一方、メディアはご両親について『中国ウイグル自治区出身』と報じることが多い。現在、ここは漢族も多く住んでおり、ウイグル族か漢族かを判断することは難しい。英利氏は、『アルフィヤ』という名前からウイグル族と推測できるが、ウイグル族(イスラーム文明圏)と漢族とでは異なる文明を背景に持っている。メディアはこの点に注意して報じたほうが良いと思う」と忠告した。

高橋 正成 ジャーナリスト

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たかはし まさしげ

特に台湾を中心に、時事問題をはじめ、文化、社会など複合的な視座から問題を考えるのを得意とする。現役の翻訳通訳者(中国語)。

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