「斎藤佑樹」の活躍に目を細める栗山の野球哲学 ビジネスの世界でも応用できる「ギバーの精神」
栗山氏にとって書き留めることは自己表現の一部であり、自分自身の思考を深化させ、記憶にとどめる手段であるという。書くことに対する栗山氏の考え方を理解することで、本書のメッセージを一層深く受け取ることができる。
「書くことにより言葉が自分の潜在意識の中に入るんです。
例えば、戦前に首相や日銀総裁など日本の要職を務めた高橋是清さんが忙しいながらも、新聞を何紙も読み、自分で大事な所を書き写していたらしいんです。秘書が『自分たちがやります』と言っても『自分で書かないと、頭に入らない』と、秘書たちの申し出を断っていました。
そのくらい書くことはすごく大切で、自分の潜在意識の中に入れ、自分が必要だと思ったことを体の中に入れ込む作業です。表現という意味でも(書く)文字と(話す)言葉は違うと思うし、自分でも分けて使っています。
29歳で現役を引退したときに『栗山英樹29歳 夢を追いかけて』(池田書店)という本を出したのですが、そのときに書くことの意味に気がつき始めたのかなと思います」
成功の柱の1つ“ギバー”
本書を読み解くキーワードの1つに、他者への価値提供や信頼構築を通じてビジネス的な成功を促進する「ギバー(giver)の姿勢」がある。栗山氏はWBCの監督在任中も、選手1人ひとりに対して心を尽くし時間を使っていた。
例えば、「修身教授録」(到知出版社)で知られる教育者の森信三の「朝晩のあいさつだけは必ず自分から先に」という言葉に従い「あいさつは自分から」行うようにしていたという。
メンバー選考を進めている過程で前田健太選手に連絡を取った栗山氏。ほとんど初対面の前田選手を緊張させてしまったり、余計な気遣いをさせたりしないために、オンラインミーティングが行われた際にも自分からあいさつするようにしたという。
そして侍ジャパンの選手に選ばれたメンバーへの連絡方法についても意識した。選手の意識を高めるために2022年12月24日のクリスマスイブに、その時点で決まっている15人に栗山氏自身が電話をかけた。
「タイミングで受け止め方は変わる」──。特別な日に電話することで心に残る形となり、選手にやり甲斐を感じさせるためだった。
一方でギバーであることは、直接的な利益や報酬とは必ずしも直結しない場合がある。栗山氏はその辺りをどう考えているのだろうか。
「二宮金次郎さんの教えに『水を押すから水は自分に返ってくる』という、たらいの水の話がありますが、見返りを期待する必要はまったくなくて、与え続けるだけでいいと僕は思っています。
年を取るとだんだんわかるんですけど、自分が必要なものを買ったときよりも、人が欲しいものをプレゼントできたときのほうがうれしかったりするじゃないですか。
『監督とは片思いをし続けなければいけない』という言葉の意味は、そういうことなんです。選手のために何かをやって、自分のことを思ってほしいとか、報われようとするのは要らない。結局は報われる形になるんですけど、これは格好つけている訳ではなくて、自分が何かしてうれしいよりも、人が喜んでくれたほうが何倍もうれしい」
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