子宮頸がんワクチン「男子もタダ」の深刻事情 「HPVによる咽喉がん」増加中、声を失う人も

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一方、中咽頭がんは、50歳ころに発症することが多いが、何歳で感染したHPVが原因となっているのかは未解明だ。感染源の一部は性交渉かもしれず、そうなると感染から発病まで30年以上かかることになる。

スコットランドやオーストラリアなどでは、やがてHPV関連の中咽頭がんなどは減少に転じるだろう。ただし、その効果が明らかになるのは2060年頃だ。それを待って日本も定期接種化するのでは、遅きに失する。

日本におけるHPVワクチンの黒歴史

ところで、HPVワクチンには、つい最近までもっと大きな誤解があった。

最近になって政府は一生懸命HPVワクチンの接種を呼びかけているが、国内で導入されたのは実は10年以上も前、2010年11月のことだ。当時、「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」として、中1〜高1の女子を対象に、公費によるHPVワクチンの任意接種が開始された。

ところが2013年4月、定期接種ワクチンに指定された直後、「ワクチンによる副反応が多く発生している恐れあり」として、積極的接種勧奨(=対象者のいる家庭に予診票を送る行政手続きを行うこと)が一時中断されてしまった。

引き続き公費で接種できることには変わりがなかったのだが、これをきっかけに接種率は70%から0.8%へと激減した。HPVワクチンを特別に危険なワクチンと印象づけるような誤情報がSNSで拡散され、人々の恐怖をあおったためだ。

そうした風評が誤りであることを示す科学的エビデンスが出そろったことで、2021年11月に積極的接種勧奨は再開された。だが、そう簡単に接種率は高くはならない。8年以上の空白期間に接種機会を逃した人を救済するため、24歳までの女性にはキャッチアップ接種の機会が提供されているが、こちらも利用は低調だ。

先進各国では男女のHPVワクチン接種を通じて、子宮頸がんから女性を守ることはもちろん、各種HPV関連がんを予防しようというフェーズに入っている。日本はまた後れを取るのか。今なお「子宮頸がんワクチン」との呼称を使っている自治体が多いこと自体、その認識を象徴している。

その点、中野区の開始した、男子のHPVワクチン接種費用の全額補助は非常に賢明だ。ほかの自治体にも拡大していくことが望まれる。もちろん国として、男子の接種についても早期に定期化するべきは言うまでもない。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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