子宮頸がんワクチン「男子もタダ」の深刻事情 「HPVによる咽喉がん」増加中、声を失う人も

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実際、陰茎がんや肛門がんは、HPVワクチンによる前がん病変(がんに推移する可能性の高い病変)の予防効果がすでに報告されている。

ただ残念ながら、中咽頭がん予防に対するHPVワクチンの効果は実証されていない。だとしても、陰茎がんや肛門がんへの予防効果を考えれば、十分期待していいはずだ。

なお、最近は化学療法や放射線治療が進歩しているが、中咽頭がんの治療は依然として難しい。

初期には自覚症状がほとんどない(あっても喉の違和感や痛みなど、ほかの原因と区別がつかない)ため、発見は遅れがちだ。進行してから見つかると大がかりな手術が必要で、声を失ったり、太ももやおなかから筋肉と皮膚を移植しなければならなかったりする。

国の承認した「適応」は女性のみ

というわけで、予防に勝る方法はない。

ただし国内の3種類のHPVワクチンのうち、男性も接種できるのはガーダシル4(4価ワクチン)だ。もちろんほかのワクチンも医学的には接種してもまったく問題ない。ただ、国の承認した「適応」は女性のみだ。

つまり、サーバリックスやシルガード9は、男性が打って万が一にも健康被害が生じた場合、「生物由来製品感染等被害救済制度」の対象とならない。

また、ガーダシル4も任意接種だ。健康保険によってカバーされない自費診療なので、接種費用は医療機関ごとに異なる。標準的には3回の接種が必要で、トータル5万円程度かかる。残念ながら確定申告での医療費控除の対象ともならない(結果的に医療費を節約する効果のあるワクチン接種は、控除の対象とすべきだ)。

実際、スコットランドやオーストラリアなどでは、すでに男性もHPVワクチンを定期接種としている。

子宮頸がんは25歳ころから患者数が増える。スウェーデンからの報告でHPVワクチンが浸潤性子宮頸がんを防ぐ効果があること、接種年齢によってがん予防効果に大きな違いを生じることがわかっている。結論として、16歳までに接種することが望ましい。

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