ブラックマーケットとは素性のわからない有象無象の世界だ。
この時期には、ブラックマーケットや怪しげな卸売業者を通じて半導体を入手した日本企業が多かった。もちろんその多くは怪しげなものだった。そこで各社はサンプルを取り寄せ、X線試験をしたり、製造日とロットナンバーを正規メーカーに問い合わせて純正品か確認したりした。
偽物を見抜く力を習得してしまうほど、苦労の連続
「あまりに半導体が足りなくて、どんなブラックマーケットにも探しに行きました。よくわからない企業がもっている場合がある。切羽詰まっているので、見つけたら、とりあえず購入するんです。
たとえば半導体A社のマレーシア工場で生産されたロットナンバーXXXの半導体が見つかったと。購入して日本に取り寄せて、そのA社にそのロットナンバーXXXは正規品なのかを聞いていました。すると、『そもそも私たちにはマレーシア工場なんかないですよ』って言われて苦笑しましたね」
それだけ混乱が続いていたのだ。
続けて、産業機器関連企業の役員が教えてくれた。
「3年間ほど混乱していたので、偽物を見抜く力がつきましたよ(笑)。半導体を梱包する段ボールに貼られたバーコードが黒マジックで塗りつぶされている流通品が純正品だといわれた。なぜならそれはメーカーから横流しされているから出元がわからないようにする。ただ偽物は、パッケージも偽造するから黒マジックのような変な工夫はしない」
そのような力を習得してしまうほど、苦労の連続だったわけだ。
とはいえ、日本には外資系半導体メーカーの日本拠点がある。日本拠点は役に立たないのか。多くの場合、日本拠点はアメリカのセールス・サポートの位置付けだ。本国の生産管理部門に口出しできる権限をもたない日本拠点が多い。少なくとも口出しをすると日本拠点長がレイオフされる現実がある。これまで、買い手である日本企業側に肩入れしてくれる“優秀な”日本拠点長ほどすぐ消えると多くの人から聞かされた。
あるサプライチェーンのマネージャーは呆れたように話す。
「外資系の日本支店や拠点がありますよね。彼らはアメリカ本社から売り上げをコミットさせられている。でも、それだけなんです。アメリカ本社が生産とか割り振りを決めていて『日本の顧客から納期を催促されているから急げ』と強く言えない。売り上げ目標が高いから受注はどんどん獲得する。でも納入できない。これは『納める納める詐欺』ですよ」
これは日本拠点が本国に英語でタフな交渉ができない構造上の問題だ。あくまでアメリカ本社からすれば東アジアの一国、一企業。そこを優先させたいインセンティブは存在しない。
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