こんなに物価高なのに「2%目標は未達」でいいのか 日銀が依拠する「物価見通し」の精度を確かめる

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日銀は「物価安定の目標は実現していない」としているが、その一方で金融政策は着実に変化している。

2016年9月にイールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)が導入されて以降、長期金利(10年物国債金利)の操作目標はゼロ%で変わっていない。

しかし、日銀は長期金利の許容変動幅を2018年7月にプラスマイナス0.1%からプラスマイナス0.2%(黒田総裁の記者会見による)、2021年3月にプラスマイナス0.25%、2022年12月にプラスマイナス0.5%へと拡大し、2023年7月には上限を1.0%まで引き上げた。

物価目標と金融政策の関係はあいまいになってきている。

良くも悪くも「2%物価上昇」は起きた

植田日銀総裁は、2023年7月の金融政策決定会合後の記者会見で「わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い」と述べているが、ここまで見てきたように、物価見通しには常に不確実性がつきものだ。

政策委員の見通しを含めて物価安定の目標を判断することは、一般的にわかりにくいだけでなく、その判断が恣意的なものとなりかねない。なにをもって「持続的・安定的」とするかは人によって異なり、客観的な基準がないからだ。

今回の物価上昇は、需要の拡大によってもたらされたディマンド・プル型ではなく、輸入物価上昇に伴う原材料コストの上昇を価格転嫁することによって生じた「悪い物価上昇」の側面が強いことは確かだ。

しかし、デフレマインドが染みついた日本では、良い形で物価が上昇することなど初めからありえなかった。

悪い形であったとしても物価上昇が継続したことが、企業の価格設定行動に変化をもたらし、30年ぶりの賃上げも実現した。これにより、物価上昇が持続的なものとなる可能性は高まっている。

物価安定の目標が実現したかどうかは、あくまでも実績値に基づいて判断すべきだ。望ましい形ではないにせよ、2%の物価上昇がいったん実現したことを認めたうえで、それを持続的・安定的なものとするために最適な金融政策を探るのが正しい姿ではないだろうか。

斎藤 太郎 ニッセイ基礎研究所 経済調査部長

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さいとう たろう / Taro Saito

1992年京都大学教育学部卒、日本生命保険相互会社入社、96年からニッセイ基礎研究所、2019年より現職、専門は日本経済予測。日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査」では2020年を含め過去8回、予測的中率の高い優秀フォーキャスターに選ばれている。また、特に労働市場の分析には力を入れており、定評がある。

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