大きな胸を気にしている女性たちも、大きな胸にばかり視線が向けられるのは避けたい、「ひとりの個人」として見られたい、でも「女性らしさも失わずに」という制約がついてくるから難しいのです。
トレードオフを乗り越えた「瞬足」
もうひとつ例を挙げましょう。みなさんは、「瞬足」という靴をご存じでしょうか。
アキレスという企業の商品である瞬足は、子どもの通学履きのスポーツシューズです。通常150万足でヒットと呼ばれる中で、2009年から年間600万足以上売れ続けており、発売開始11年で累計5000万足以上を売り上げています。
瞬足は、人々が思っていた「運動場のカーブで転ばないためには、スピードを落とさなければならない」という先入観を変え、「運動会でカーブを全力で走りたい」という願いを見抜き、かなえてくれています。
俊足は軽量なことに加え、左右非対称ソール(左足の外側、右足の内側に滑り止めを多く配置したソール)を採用して、多くの保育園の園庭や小学校の校庭で採用されている左回りのトラックで、遠心力に負けず、滑らずに走り抜けられように設計されています。
瞬足が登場する前までは、特に広いとは言えない都会の園庭・校庭では、「カーブを転ばずに走る」ことと「全速力で走ること」は、両立できないと考えられていました。通常は、カーブで転ばないことを目指すと、スピードを緩めなければなりません。一方で、全力でカーブを走ると転ぶ確率が高まります。
「カーブで転ばない」と「全力で走る」ことの間には、どちらかを実現しようとすると一方が実現できなくなるという、「トレードオフ・ライン」が存在するのです。
イノベーションは、トレードオフの関係にある不満を一発解消するというのが、その特徴のひとつです。普通の解決策がトレードオフ・ラインの内側のどこかに位置づけられるのに対し、イノベーションは、トレードオフ・ラインを乗り越えるところに生じます。
では、どうしてトレードオフを含む不満を解消する必要があるのでしょうか。この理由は簡単です。トレードオフが存在しているということは、「まだ解決されていない課題」があることの裏返しであり、それに対する解決策というのは、少なからず「新しい」ものであるからにほかなりません。
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