ロシア国防相を金総書記が歓待した戦略的理由 北朝鮮とロシア、それぞれの思惑を専門家に聞く

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――金総書記はショイグ国防相はじめロシア側代表団をかなり厚遇したという印象が拭えません。北朝鮮メディアには、「戦略・戦術的共同・協調」「共同戦線」「戦略的団結」「同じ塹壕」といった連帯をアピールする言葉がちりばめられています。

その通りです。その前に、ロシアと中国からの代表団が訪朝し、閲兵式まで参観したことは、北朝鮮の核問題に対する国際的な連帯が崩壊したことを意味する、ということです。北朝鮮にとっては、国際社会が北朝鮮を事実上の核保有国として認めるという流れに向けた非常に大きな一歩だといえるでしょう。

確かに北朝鮮は今回、ロシア側を中国側よりも重要だと判断しました。ロシア側は平壌の「武装装備展示会」まで訪問しましたが、これは北朝鮮との軍事協力を長らく禁止してきた国連安全保障理事会(安保理)の制裁に対する露骨な挑戦と見るほかありません。

一方で、中国側はしたたかでした。

中国の習近平政権が代表団トップに選んだのは李鴻忠・中国共産党政治局員で、全国人民代表大会(全人代=国会)の副委員長です。李氏は高位の政治家ですが、軍事とはあまり関係がなく、祝賀行事に参加するために派遣されたという程度の意味合いです。

今回、習近平国家主席は、プーチン大統領よりも外交が上手だということがわかります。世界情勢を客観的に把握できることを改めて示しました。不必要な世界との摩擦を避けた、ということです。

【記者註】中国はこれまで40周年(1993年)、60周年(2013年)の“戦勝節”行事に代表団を派遣している。1993年当時は胡錦濤・中国共産党中央政治局常務委員(後の国家主席)が、2013年には李源潮・同政治局委員・国家副主席が代表として訪朝している。政治的地位からすれば、今回の李鴻忠氏は李源潮氏とそれほど変わらない人物だ。

韓国とアメリカに警告を与えたロシア

――今回、プーチン政権が代表団を訪朝させたことはどのような意味を持つのでしょうか。

私は、今回の訪朝でロシア側が達成しようとした目的は次のように考えます。

まず、韓国に対する警告です。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は7月15日にウクライナを訪問しました。この訪問により、韓国がウクライナに向けて軍事支援を行う可能性が高いとみられています。そのため、ロシアからすれば「ウクライナに韓国が軍事支援を行えば、ロシアは北朝鮮に軍事支援を行う」という圧力をかけたかったのでしょう。

次に、アメリカを初めとする西側諸国への恐喝です。この数週間、ロシアの親政府系メディアの報道をみると、核戦争の話がよく出ています。「核戦争は危険だが、必要悪だ」との内容の報道が目立つようになりました。

これは、必ずしもプーチン大統領をはじめとするロシア指導部が、本物の核兵器を使用する考えがあることを意味するものではないかもしれません。とはいえ、アメリカに対して強力な心理的圧迫を行っているのだと思います。ロシアが北朝鮮を軍事的に支援すれば、これはアメリカにとって深刻な圧力となるでしょう。

最後に、ロシア代表団の訪朝は、中国・ロシア・北朝鮮の3カ国軍事同盟、厳密に言えば、「3カ国軍事準同盟」が成立可能だということを示したかったということです。

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