これだけ!OJT 中尾ゆうすけ著
新年度を迎え、初めて部下を持つ人、後輩の育成を任されることになった人も多いだろう。だが、自らの新入社員時代にOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)に恵まれなかった人は、自分の後輩にも同じように的を射ないことをしがちだ、と著者は警告する。
今、この「負の連鎖」に悩む企業は多いのではないだろうか。
バブル崩壊後の就職氷河期に入社した社員の多くが、人手不足により十分な教育を受けないまま、会社の中で年齢だけ上がってきた。そんな彼らが今、30代となって後輩や部下を持つ年代になったわけだ。部下への教育の仕方がわからず人材育成でつまずくケースが目立つとよく聞く。
集合研修なども大切だが、この「負の連鎖」を断ち切るためにはOJTの見直しと徹底が急務だろう。仕事は見て覚えるものだという考え方は、1人当たりの業務量が増え、業務そのものが複雑化する今の時代にはもう通用しないと思った方がいい。
「自分の業務とOJTの両立はしんどい、面倒」と思う人もいるだろうが、「どんなに優秀な人でも、そうそう2人分の成果は出せません」と著者が指摘する。ひとたび後輩が戦力になれば自分もラクになるうえ、2倍の成果が出せるようになることに気づくべきだ。
特に管理職の仕事は、部下を使ってより大きな成果を出していくこと。部下や後輩の成長が早いほど、自分の次のステップの扉も早く開く。成果が出れば当然、会社は成長する。OJTがうまくいけば、企業の負の連鎖はたちまちプラスのスパイラルへと変わると言っても過言ではない。
初めてOJTを行う人も、OJTがうまくいかずに悩んでいる人も、効率的なOJTを行うためには結局は基礎が重要となる。本書は、新入社員のOJTを前提に書かれた指南書だが、OJTの基本的な考え方を始め、OJTの進め方や具体的な指導の仕方など、押さえるべきポイントがわかりやすくまとめられている。OJTに不安を覚えるすべての人の意識改革に役立つに違いない。
同時に、実用的でもある。
特に効率的なOJT計画書の作り方や活用の仕方についての説明が丁寧。人材育成のノウハウが形骸化もしくは劣化している大企業や、能力要件書や職務要件書などない中小企業でも、今すぐ現場に即したOJTを始められるだろう。