日銀のあいまいな政策修正の裏に「2つの失敗」 植田総裁、就任初の一手にみる金融緩和の行方

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とはいえ、市場取引では想定外に金利が急騰することもある。「指し値オペ」の1%は「念のためのキャップ(上限)」(植田総裁)、いわば「抜かずの宝刀」という位置付けだ。0.5~1%の間でも、日銀は完全に手を引いて市場に委ねるのではなく、急な動きや投機的な動きの際には抑制する。

今回の政策変更では、金利変動にストッパーを設けつつ、長期金利を市場メカニズムへ戻す一歩を踏み出した形だ。

日銀は、いまや国債市場で発行残高の半分を保有し、長期金利をコントロールしている。その副作用の1つとして、市場の取引ノウハウが失われていることが問題視されていた。

植田総裁は会見で「(YCCを放棄せざるをえなくなる)手前で、対応の余地を広げるために動いた」と述べたが、それは市場がウォームアップする時間を設けた面もあるだろう。

「次の一手」まで半年以上?

今回の日銀の決定のあいまいさには、相反する意図がうかがえる。緩和の正常化を視野に、長期金利のコントロールを緩めるという布石を打ちつつ、実際の正常化にはまだ距離があると念を押している。

正常化の次の一手は、マイナス金利の解除と目される。

今回の長期金利の上限引き上げが影響を及ぼすのは10年前後の金利であるのに対し、短期金利をマイナス0.1%から引き上げれば全年限にわたって金利引き上げとなり、正真正銘の「利上げ」だ。日銀が目指す物価上昇について「賃金の上昇を伴う」と銘打つ以上、2024年の春闘で賃金上昇を確認できるかどうかは1つのポイントとなる。

次の一手が打たれるのは、早くても半年以上先となりそうだ。

黒崎 亜弓 東洋経済 記者

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くろさき あゆみ / Ayumi Kurosaki

特に関心のあるテーマは分配と再分配、貨幣、経済史。趣味は鉄道の旅、本屋や図書館にゆくこと。1978年生まれ。共同通信記者(福岡・佐賀・徳島)、『週刊エコノミスト』編集者、フリーランスを経て2023年に現職。静岡のお茶屋の娘なのに最近はコーヒーばかり。

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