ビッグ会見に見る「SNS時代の企業謝罪」の難しさ メディアだけでなくネット民も追及する時代に

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なお報告書では、不正の温床となった「経営陣の意向に盲従することを余儀なくさせる企業風土」が育まれた背景には、兼重氏の子である宏一氏のもとでの「降格人事」もあると指摘されているが、会見に宏一氏の姿はなかった。

これまでメディア露出が少なかった兼重氏が、なにを発言するか。注目されるなか出てきたのが、「ゴルフを愛する人への冒涜(ぼうとく)」発言だった。ゴルフボールで車体を傷つけた事例は「一線を越えている」として、刑事告訴も含めた対応を示唆。しかし会見終盤になって、責任は自分にもあるとして、告訴は「考え直しました」と撤回している。

会見で兼重氏は、現場の不正は知らなかったとの立場で一貫していた。しかし会見を見たネットユーザーからは、「知らないわけがない」「社員のせいにしている」といった投稿が続出している。たとえ知らなかったとしても、それはそれで経営責任を問われる事案だ。

また視聴者でさえ「社員を守ろうとしていない」という印象を抱いてしまったのなら、現場で働くビッグモーター社員の心情はいかばかりか。なお和泉新社長は7月26日、会見から翌日までに6人が退職したと、報道陣に語ったという。

ビッグモーター会見の写真
新たに社長に就任した和泉伸二氏(撮影:今井康一)

「自動車を愛する人」ではなく、「ゴルフを愛する人」を慮った発言にも、「違う、そうじゃない」「ピントがずれている」との指摘が相次いだ。この発言をはじめ、会見準備が整っていなかったのでは、と感じる場面は多々見られた。

このところネット上では「ビッグモーター店舗前の街路樹が、そこだけ不自然に枯れていた」といった報告が相次ぎ、除草剤をまいた影響なのではないか、との疑惑がでている。これについて問われた兼重氏が「環境整備で……」と話し始めると、管理本部長の陣内司氏がそれを遮り、調査のうえで対応すると「代弁」した。

過去の名物会見から見る、謝罪会見がコンテンツ化していった経緯

こうした様子を受けて、SNSでは過去の「名物会見」が振り返られている。食品偽装などで謝罪会見を行った高級料亭「船場吉兆」の「ささやき女将」や、ユッケ食中毒で死者を出した「焼肉酒家えびす」社長の「逆ギレ」から一転しての土下座、食中毒会見での雪印乳業社長による「私は寝てない」発言……といった事例が引き合いに出されるほか、ビッグモーター会見の印象とは対照的に、徹底的に従業員を守った「社員は悪くありませんから!」発言の山一證券(廃業)による社長会見を再評価する動きも見られる。

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