サステナビリティー国際基準、企業が知るべきこと 炭素会計支援パーセフォニ幹部に聞く「必要な戦略」

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――ISSB基準が採用されることにより、今後、気候関連などサステナビリティー情報についても各国で財務諸表と同様に監査の対象になるのでしょうか。

監査対象になるかは規制当局の姿勢によって異なるだろう。ただ、財務報告の一部に記載し、それを監査役がチェックするというプロセスは今後も続く。他方で今後、サステナビリティーデータに関する第三者認証が重要になってくる。現在、そのためのルール作りが進められている。いずれにせよ、企業はサステナビリティーデータについて内部統制をしっかりしなければならなくなる。

Emily S. Pierce/パーセフォニ最高グローバル政策責任者。アメリカ証券取引委員会(SEC)国際部門アシスタントディレクターなどを経て現職。SEC在籍時には、証券監督者国際機構(IOSCO)の持続可能ファイナンスタスクフォースの共同議長を務め、国際サステナビリティー基準審議会(ISSB)の設立に貢献した(撮影:梅谷秀司)。

――6月末に開示された多くの日本企業の2022年度有価証券報告書では、気候変動問題への対処に関してはガバナンスと戦略について少し記述している程度です。本気で気候変動問題に取り組んでいる企業は少数にとどまっている印象があります。

そうした状況は、日本企業のみならず、グローバル企業全体にも言えることだ。現在開示されているサステナビリティーデータの水準は投資家にとっては不十分だと言われている。だからこそISSB基準に基づくデータ開示が重要な意味を持つ。

これまでのようなさまざまな基準の乱立状態が是正され、ISSB基準としてグローバルで統一されたことの意義は大きい。投資家は各国の企業の取り組み状況を比較検証することが可能になる。

情報開示の質が高ければ、脱炭素への取り組みはビジネス拡大の機会になる一方、不十分な企業は市場から管理能力が低いと見られるリスクがある。そうした企業はすぐさま市場から淘汰を迫られるわけではないが、資本コストが非常に高くなることが予想される。

政府調達でも排出開示義務化の動き

――温室効果ガスの排出状況については、政府調達に際して開示を義務付けたり推奨したりする動きも見られます。

アメリカでは連邦政府の調達に際し、義務ではないものの有利に働くという考え方に基づいて開示している企業が多い。現在、アメリカでは、温室効果ガス排出について一定のしきい値を設け、それをクリアできない企業は入札から排除するといった規制の導入が検討されている。カナダでは4月から政府が調達条件として温室効果ガス排出量のデータと削減目標の開示を義務付けた。イギリスも同様の規制を導入する予定だ。

こうした政府の動向や企業の対応には投資家も着目している。排出状況や削減への取り組みをきちんと開示することで、企業は投資家から資金を呼び込むことができる。そうした好循環により脱炭素化が進んでいくことを期待している。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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