インドの全方位外交はG20を成功させられるか 世界から引っ張りだこのインド外交、その実力は

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そこでインドは、7月4日の首脳会議をオンライン形式で開催することにした。4月の国防相会合と5月の外相会合はいずれも対面で開催していただけに不自然な印象は否めなかったが、インドとしては「安全策」をとったということなのだろう。

首脳会議終了後に発表された「ニューデリー宣言」を見ると、加盟各国は「より多極的な世界秩序の形成に向けたコミットメントを確認した」という、過去の声明を踏襲した文言がある。また、イランの正式加盟が承認されたほか、ベラルーシの正式加盟に向けた手続きが進んでいることの言及もあった。

こうした展開はインドがイニシアチブをとって推進してきたものではないが、米欧とは異なる秩序構築を掲げるSCOに加盟していること自体が独自の立ち位置を象徴していると言える。

G20首脳会議にかけるインドの意気込み

インドにとって2023年最大の外交行事は、9月9〜10日にニューデリーで予定されているG20首脳会議だ。

インドは自国でのG20開催を並々ならぬエネルギーを注いでアピールしている。筆者は今年に入ってから2回インドを訪問したが、首都ニューデリーでは空港や街の至る所にG20議長国をアピールするバナーやデジタルサイネージが設置されていることに目を見張った。28の州および8つの連邦直轄領すべてでG20の関連会合が開催されるとのことで、壮大な地域振興にもなっている。

その締めくくりが首脳会議であり、SCO首脳会議のようにオンライン開催というわけにはいかない。そして、G20はSCO以上に困難な舵取りが求められる。プーチン大統領が出席するかという問題もさることながら、ウクライナ戦争について、インドは議長国として解決につながるメッセージを発信するような共同声明をまとめることができるだろうか。

2023年2月に行われた財務相・中央銀行総裁会合では、ロシアのウクライナ侵攻についての言及が中ロの賛成を得られず、「共同声明」ではなく「議長総括」というかたちで発表された。紛争の当事国や立場もさまざまな国々が集まるG20という場で、コンセンサスを形成するのは容易ではない。

また、インドは2023年1月に「グローバルサウスの声サミット」を開催するなど、われこそが途上国の利益の代弁者であるとの姿勢を鮮明に打ち出している。だが、7月に開催されたG20エネルギー相会合では、脱炭素化に向けた動きを推進したい欧州勢と新興国・産油国の溝が埋まらず、発表された文書は一部のパラグラフが「議長総括」となり、残りが「成果文書」というかたちになった。

首脳会議ともなれば、閣僚会合以上に世界各国や国際機関から大きく注目されることになる。加盟国の利害を調整し、G20をグローバルな課題の解決にインパクトをもたらす場にできるかどうか。インド外交の手腕が問われている。

笠井 亮平 岐阜女子大学南アジア研究センター特別客員准教授

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かさい・りょうへい

1976年生まれ。中央大学総合政策学部卒業、青山学院大学大学院で修士号。専門は日印関係史、南アジアの国際関係。著書に『インパールの戦い』など。

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