インドの全方位外交はG20を成功させられるか 世界から引っ張りだこのインド外交、その実力は

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筆者はこうした合意メニューを見て、「アメリカがかなり踏み込んできた」という印象を受けた。インドを自陣営に取り込むことで、ウクライナ戦争をめぐる対ロシア、経済・軍事面で対立が深まっている対中のパワーバランスを自国に有利なものにしたいというねらいがあってのことだろう。

もちろん、アメリカとしてもインドが軍事やエネルギー面でロシアに大きく依存していることは百も承知のはずだ。これまでもアメリカはインドの防衛装備品調達に食い込もうとしてきた。しかし今回は単に武器を売却するのではなく、無人機の組立やエンジンの生産のように、インドとの継続的な関与と協働に本気で取り組もうとするものと言える。

こうした取り組みを通じて、対ロシア依存の度合いを低下させ、かつ自国のプレゼンスを高めていこうとしているのではないか。当のインドにしても、ロシアからは得られない先端技術分野での協力を得られるのは悪い話ではない。

上海協力機構サミットで見せたインドの「安全策」

では、これでインドは今後、アメリカへの傾斜を強めていくのだろうか。印米関係の緊密化が進んでいくことは間違いない。しかし、インドのジャイシャンカル外相が2022年11月にモスクワを訪問し、2023年4月にはロシアのラブロフ外相がデリーを訪問するなど、インドとロシアの密接な関係は引き続き維持されている点も忘れてはならない。

エネルギー面でも、インドは昨年からロシア産の原油輸入を急増させ、対ロシア経済制裁を続ける米欧とは一線を画している。つまり、インドの対米接近が進むからといって、その分対ロシア関係の重みが減るということにはならないのである。

ただ、モディ首相が2022年9月にプーチン大統領との首脳会談で「今は戦争の時代ではない」と、長期化するウクライナ戦争について苦言を呈しているように、インドもロシアの対応を積極的に支持しているわけではない。対ロシア関係の維持は必要としても、国際社会からロシアが始めた戦争を容認していると受け取られるのは避けたいという考えもあるだろう。

2023年、インドはG20以外にもう1つ重要な会議の議長国を務めた。上海協力機構(SCO)である。SCOは2001年に中国、ロシアおよび中央アジア4カ国で発足し、安全保障やテロ対策を主要な協力分野とする地域機構だ。

インドは2005年にオブザーバーとして参加し、2015年にはパキスタンとともに正式加盟が認められた。インドは2022年9月にウズベキスタンから引き継ぐかたちで初の議長国を務めることになった。

だが、ウクライナ戦争が続く中で、ロシアが参加する多国間組織の首脳会合を開催することは相当に神経を使う。加えて、インドにとっては国境問題で対立する中国や、カシミール問題をはじめ懸案を抱えるパキスタンの存在もある。

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