大手商社も参入!人手不足の「空港改革」最前線 経験と勘頼みの職人技をAI、ロボットで自動化

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現状、グラハン作業の進捗は、無線やiPadなどを通して作業員が報告している。コントローラーと呼ばれる工程管理者はパソコンの画面に表示される30以上の作業の進捗を見ながら、まさに経験と勘を基に細かな作業工程の調整を無線で行っている。悪天候などでダイヤが乱れると運用は綱渡りとなる。

「APRON AI」は、駐機場の監視カメラでグラハン作業全体を把握し、事前に入力した作業計画からどれくらいの遅れが出ているかAIで解析し、空港内の関係部署に同時に遅延の警告を発出する。さらに予想される出発可能時刻を割り出すことができる。

「作業の進捗から出発予想時刻が一元的に管理できれば、空港全体で飛行機の動きをマネジメントできる。スポットの無駄な空き時間を減らすことができ、より多くの飛行機を受け入れることができる」と、丸紅航空第一課の多藝紘一課長は強調する。

出発時間の正確な予測は旅客側の作業にもよるが、少なくともグラハン側で出発予想時間が把握できれば、スタッフの効率的な配置にもつながる。

シアトルでは作業の遅れが25%改善

アメリカのシアトル・タコマ国際空港では約100スポットにシステムを導入したことで、航空機の無駄な待機時間が減り、誘導路の走行時間が28%削減。グラハン作業の遅れも25%改善された。ロンドン・ヒースロー空港の実証では、4枠の発着枠を新たに捻出できたという。

駐機場の監視カメラでグラハン作業全体を把握する「APRON AI」(記者撮影)

アサイアは、駐機している飛行機の出発予測データを基に、到着機を自動的に空きスポットに割り振る機能を開発している。

所定のスポットで作業が数分でも遅れれば、到着機は誘導路で待機するほかない。早めに空きスポットに誘導されれば、あらゆる無駄を削減できる。スポット数の多い混雑空港ではパズルのような作業になるが、自動化されれば調整担当者の負担は激減する。

シアトルでは空港会社が顧客となり、データをエアラインやグラハン会社に開放している。国内ではまだ導入実績はないが、丸紅は空港会社を中心に営業を強化していく。今後、主要空港で進むAIを活用したグラハンDX化事業に積極的に参加していく方針だ。

「われわれは空港内を走るバスや作業車両の自動運転化、位置や稼働率把握の実証にも参加してノウハウを積み重ねている。空港全体の自動化をトータルで担っていきたい」と多藝課長は意気込む。

政府は2025年をメドに空港内の作業者の完全自動運転化(レベル4)導入を目指している。そう遠くない将来、空港の自動化が一気に進む可能性がある。

森 創一郎 東洋経済 記者

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もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

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