中国が圧力?インドネシア「日本の中古電車禁止」 外交弱まる中、民間が築いた信頼維持できるか
ここまで工業省がKCIに対して強気に出るのにはもう一つ理由がある。2022年5月に、KCIはINKAとの間で国産通勤電車12両編成16本の調達覚書を結んだ。これは、スイスのメーカー、シュタドラーとINKAの合弁会社「シュタドラーINKAインドネシア(SII)」が車両を製造することを前提としていた。
INKAは2019年1月にシュタドラーとの提携を発表し、ジャワ島最東端のバニュワンギで新工場の建設に着手した。土地と建屋はインドネシア側が、生産設備と技術移転をシュタドラーが準備することになっていた。この提携を取り持ったのが工業省である。その裏で工業省はシュタドラーに対し、日本製中古車両によって占められている約1000両に及ぶジャカルタ首都圏通勤車両の増備車と置き換え用の車両をISSに受注させると約束していたことが明らかになっている。
一方、KCIはインドネシアでの使用環境に合致しないヨーロッパ仕様の車両に対して不信感を抱いていた(2022年5月18日付記事「『日本の牙城』ジャカルタ鉄道に迫る欧州勢の脅威」)。政府が仲立ちする形で強制縁談のごとく覚書が結ばれたものの、これはその後、結局破談に至った。KCIはSII製車両の導入を最後まで拒み続け、INKAに対して日本仕様、日本製の主要機器の採用を条件に国産車両の導入を容認した。
工業省の強硬な態度は「腹いせ」か?
そしてKCIとINKAの間で結ばれたのが、今年3月の正式契約である。その際の国産車両のイメージ図にシュタドラーが提案した車両の姿はすでになく、先頭部が切妻式の日本の通勤電車然としたものに代わっていた。
一方のシュタドラーは、ジャカルタ案件を受注できなかったことでバニュワンギ工場への設備投資を完全に取り下げた。同工場は建屋のみ完成したが、中身は空っぽである。工業省とシュタドラーの間での口約束は果たされないものになり、SIIは事実上、空中分解した。いわば、工業省はKCIの抵抗によって顔に泥を塗られたも同然である。
KCIがSII製車両を受け入れていれば、コロナ禍による1~2年の遅れは生じたものの、2024年には国産新型車両が調達されるはずであった。約束を反故にされた工業省は、KCIに対して腹いせ的に強硬な態度を取っていたわけである。日本に対して中古車両輸出と新車のダブルで蜜を吸わせたくないという思惑もあるだろう。
ちなみに、今後の新型通勤電車の製造も、予定通りバニュワンギ工場を使用することになっており、機材調達を含めた新車両製造、また既存車両の更新用の予算として、政府は9.3兆ルピア(約875億円)を用意することをほぼ決めている。
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