ただ、為替ヘッジコスト(手数料)がかかるうえ、円安時に生じる為替差益などプラス効果を享受できないといったデメリットもある。
JOYnt代表で金融ジャーナリストの鈴木雅光氏は、「為替はヘッジを入れずに運用するファンドが大半。為替相場は中長期的にはボックス圏で進むため、運用に与える影響は中立として考える。そもそもヘッジをかけると、手数料がかかるためパフォーマンスが下がり、メリットがない」と語る。
大学ファンドの為替ヘッジ比率は44.3%。一方、国内最大級の運用規模を誇る年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の同比率は(外国債券を分母とした場合)3%程度と低い。
大学ファンドとは規模やポートフォリオなどが異なるため単純比較はできないが、GPIFの2022年度の収益額は2兆9536億円だった。GPIFの運用資産額は200兆円超、そのポートフォリオをみると国内株式、国内債券、海外株式、海外債券がそれぞれ約25%ずつを占める。2022年度の債券の収益率は国内がマイナス1.74%、海外はマイナス0.12%と大学ファンドに比べ損失は少ない。
井出チーフ株式ストラテジストは、「為替ヘッジ比率が高すぎるために損失が膨らんだ」と指摘する。
喜田理事は農林中央金庫(農林中金)出身。農林中金は数十兆円という巨額のマネーをグローバルに分散投資する国内唯一の金融機関だ、喜田理事はそこで3年間常務を務め、運用の最前線での経験が豊富だ。
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント出身の杉本直也氏や日本銀行出身でJPモルガン証券のチーフエコノミストを務めた鵜飼博史氏などの専門家がJSTの資金運用に携わり、喜田理事の脇を固める。
これら運用のプロはなぜ為替ヘッジ比率を高めた慎重な運用に終始しているのか。
自己資本比率が低い財務構造がネック
大学ファンドは、財政投融資8.9兆円、政府出資1.1兆円の合計10兆円を原資とする。財政投融資とは国債の一種である財投債により調達した資金を公共性・政策性のある事業へ低金利かつ長期に貸し付ける仕組みで、つまり国からの借金ということになる。2041年度から40年かけて順次返済していく計画だ。
自己資本比率が低い財務構造であり、財政融資資金の返済や国際卓越研究大学への長期的かつ安定的な支援に影響がでないよう「2022年度は運用立ち上げ期でもあり、リスクを相当程度抑制している」とJSTの担当者は説明する。
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