そもそも、退職金課税では、多額の退職金を一度に受け取ると、累進課税されることにより多くの所得税を払わなければならなくなるという点に配慮しており、退職金を一時金として受け取る場合には他の所得とは合算せず分離課税している。
その際、勤続年数20年までは1年につき40万円、勤続年数20年超の部分については1年につき70万円の控除があり、その分だけ所得税負担が軽減されることとなっている。
この20年超の勤続に対する税制優遇に、新しい資本主義実現会議がかみついた。この控除の増額が自らの選択による労働移動の円滑化を阻害している、と指摘したのである。
財源確保ではなく、多様な働き方に対応
同会議が6月に取りまとめた「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」では、労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘を踏まえ、「制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う」と明記した。これが「退職金課税の強化」と受け止められた。
ただ、これは政府税調の答申ではない。しかも、新しい資本主義実現会議での議論も、「増税」が主目的なのではなく、成長分野への労働移動の円滑化を阻む制度的要因を取り除くことを主目的とした提言である。
政府税調では、これまでにも退職金課税は時折議論の俎上に載ることがあった。そこでの議論は、財源確保のための増税を前提としたものではなく、多様な働き方に対応する税制への転換を期してのものである。
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