キーウの書店本棚から撤去されたロシア語書籍 ソ連批判作家の記念館にも「脱ロシア化」の矛先

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「100年以上前のキーウは、まったく違う国、都市だった。当時のキーウはロシア化され、ロシア語が支配的な言語だった。ブルガーコフの時代をきちんと描くことで、彼の帝国主義的な考えとわれわれの脱植民地化の要請とを矛盾なく結び付けたい」

館長は「ブルガーコフは1990年代初めの再評価に続く、第2の見直しの時期に当たっている。ただ、今回のほうがもっと厄介だ」と言う。

展示見直しがウクライナ国民の理解を得て、世界的小説家の足跡を残すことができるか。記念館は難しいかじ取りを迫られるだろう。

ナショナリズムをどうコントロールするか

キーウでは街路の名称変更も進んでおり、ロシア人の名前のものはウクライナ人を中心とした名前に代わっている。その数は500カ所にもなる。

また、2022年以降、ウクライナ全土で進行しているのは、文化面でロシアを代表するロシア近代文学の父アレクサンドル・プーシキン(1799~1837年)の銅像撤去だ。

拙著(『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』)に書いたが、ウクライナでは2015年前後に、ボリシェビキ革命の指導者ウラジーミル・レーニン(1870~1924年)像の撤去が相次いだ。

今や「脱ロシア化」は政治から文化にまで広がり、新たな段階に入ったと言える。

ナショナリズムの高揚は、戦時下という特殊な条件ではやむをえない面もあるし、国民国家の歴史が浅いウクライナが、国家形成をしていくための一つのプロセスと見ることもできる。ただ、偏狭なナショナリズムは好ましいことではないし、それをいかにコントロールするかが「戦後ウクライナ」の一つの課題になるのだろう。

ブルガーコフ記念館の行方はその一つの試金石になるのではないか。

三好 範英 ジャーナリスト

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みよし・のりひで / Norihide Miyoshi

みよし・のりひで●1959年東京都生まれ。東京大学教養学部卒。1982年読売新聞社入社。バンコク、プノンペン、ベルリン特派員。2022年退社。著書に『ドイツリスク』(2015年山本七平賞特別賞受賞)『メルケルと右傾化するドイツ』『本音化するヨーロッパ』『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』など。

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