5月17日、店長のグリフ・マレッチさん(27歳)と、広報担当をしているアナスタシア・ハゾヴァさん(24歳)に、店内で話を聞いた。
マレッチさんは、「この本屋はキーウ市が運営している『公営書店』。公営らしく誰でも朗読会などを開催できる場でもあり、前線の兵士に本を送るキャンペーンなど、いろいろな社会活動もしてきた」と話す。
ロシア語書籍の回収キャンペーンはそうした活動の一環として行われ、期間中70トンが集まり、リサイクルの収入で、車両2台、電灯、発電機、防弾チョッキをウクライナ軍に寄贈した。
地下室やそこに至る階段には、ひもで縛られたり、段ボール箱に入ったりしたロシア語の本が山積みになっていた。
トルストイ、ゴーリキ、プーシキン、ブルガーコフといったロシアの作家の本に加え、デュマ、レマルクなどの翻訳ものも多い。『科学的共産主義の上級過程』といったソ連時代の本や、マルクスやレーニンの著作もあった。
キャンペーン終了後も本を持ち込み、送ってくる人が絶えないため、延長することにした。「この1週間の間に送られてきた本で、店内はもういっぱいになってしまった。新しいスペースを借りることにした」とマレッチさん。
「ロシア語の本はないのか」とは聞かれない
書棚のロシア語の本もすべて撤去した。
マレッチさんは、「ロシア語の本がないのか、と客から聞かれることはない。ウクライナの退役軍人がたくさんの本を書いていて人気を集めるなど、読者の関心はウクライナの作家や、ロシア以外の外国作家に移っている。今後もロシア文学の古典がウクライナ語に翻訳されることはないだろう。ロシア語の本がこの書店に戻ってくることはもはやない」という。
また、自然科学や技術関係は、かつてはほとんどがロシア語の文献だったが、ウクライナ語のものも増えている。最近は英語からウクライナ語に翻訳するものが多いので、その分野でもロシア語の需要は減っている。
とはいえ、文豪の作品は言うまでもなく、ロシア語書籍自体が文化と言えるし、それを集めて廃棄するのは、一つの文化破壊ではないだろうか。
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