世界的に冬の時代の「M&A」。なぜ日本だけ元気? 新規プレイヤーたちの「思惑」と「今後の懸念」

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また、投資のきっかけとして、アクティビストに一定の株式を保有されその対応に忙殺されることに端を発し、非上場化を図る事例も増えてきた。東芝は経営再建の一環として様々なアクティビストファンドから資金調達をしたものの、その対応に追われたことも非上場化を図る要因ともいわれている。まだ、表に出ていないものの、アクティビストに一部株式を握られたタイミングで、PEファンドにMBOの相談が行き、オプションの1つとしてPEファンドによる買収が検討されている例は1つや2つではない。

上記2つ以外にも、PEファンドが事業再生案件に投資することが増えてきたという感覚がある。具体的には、ジェイウィルパートナーズが、品質問題から経営不振に陥りADRの申請をした後発薬品の大手である日医工のスポンサーとなったり、日本産業推進機構(NSSK)が、こちらは民事再生手続きにあった不動産大手のユニゾのスポンサーに手を挙げたりする等の例がある。

従来、PEファンドは成長市場において、明確な競争優位性を持つプレイヤーを中心に投資をしてきたが、企業としての業績は不振でも、金融的な処理を同時にすることで改善可能性がある企業には投資するようになってきた。

競争の激化と注意点

M&A取引金額をGDP対比で見ると、通常時では欧米諸国では5~10%強と言われているのに対し、日本は、集計機関によって数字にぶれがあるが、2022年の実績では2~3%となっており、従来日本のM&A市場は、海外に比べて対GDP対比でまだ小さいと言われ、成長ポテンシャルがあると言われてきた。

日本市場は、上述の通り投資主体の多様化が進むとともに、依然としてコングロマリットからのカーブアウトや事業承継のニーズは大きく、今後もM&Aは堅調に拡大すると思われる。

一方で、足元で多くのBDDに関わっている肌感覚からすると買い手側の競争が非常に激化してきており、優良案件に関してはEV/EBITDAマルチプルがかなり高くなってきていると感じる。実際に、事業計画を精査する場合にも、被買収企業が開示するマネジメントケース以上に強気の事業計画を見込み、それを価格に反映させないとビッドで競争力のある価格を提示できないような状況も散見される。

このような状況においては、特にBDDの段階での事業計画の見極めや、その段階でのバリューアッププランの作り込みの精度を上げることに加えて、実際の投資後には計画段階で見込んだバリューアップを確実に実行できるようなPMIを外部戦力も活用しながら徹底することが重要である。そのようなことが徹底できないと数年後に、巨額の減損を計上することとなる。

※ 金額は公表記事ベース

久野 雅志 A.T. カーニー シニアパートナー

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くの まさし / Masashi Kuno

A.T. カーニー シニアパートナー、PEMAプラクティスリーダー。東京大学法学部卒。中央省庁の官房企画部門にて、法令審査や国会対応、規制改革など業務を担当後、A.T.カーニーに入社。ビジネスブレークスルー大学 客員教授。PEファンドや事業会社のM&Aを、M&A戦略の策定からビジネスデューデリジェンス、PMI・バリューまで一貫して支援。

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