世界的に冬の時代の「M&A」。なぜ日本だけ元気? 新規プレイヤーたちの「思惑」と「今後の懸念」

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このように、銀行がバイアウトの主役になるだけでなく、銀行が「サーチファンド」を設立して、事業承継を支援する動きも出てきている。サーチファンドとは、経営者を目指す個人が、経営したい企業を探し、投資家からの支援を受けて企業を買収し経営する仕組みである。山口フィナンシャルグループが2019年にサーチファンドを立ち上げたのを皮切りに、横浜銀行や日本政策投資銀行もサーチファンドを立ち上げて、事業承継の支援をしている。

このように投資主体が従来のプレイヤーだけでなく多様化することで、投資資金の流入が図られ、国内M&A市場が活性化する側面がある一方で、銀行系プレイヤーは、2000年代中ごろにM&Aビジネスの主体となるべく体制を強化したものの、ほとんど成果を上げられなかった過去もあり、今回はその反省を生かして運営の仕方を大きく変える必要がある。

投資実務は、銀行の通常業務とは大きく異なるものであり、そのようなことができる専門家人材を確保したり、通常の社内の意思決定とは違う形で運用する必要性があったりするなど、従来の事業の延長線上ではない組織運営が求められる。また、有望な案件に関しては、海千山千の国内外のファンドとの競争になり、下手に高値掴みすることを避けるとともに、そのような投資ファンドが投資できない独自の領域をきちんと見つけられるかがポイントである。

また、特に企業再生案件においては、投資後には、金融的な債務の処理だけでなく、事業を成長させることが求められるが、事業会社を理解し、管理ではなく成長させられる人材・ノウハウをどう獲得するかも大きなチャレンジである。

M&A案件の多様化とそのリスク

国内のM&A市場において、事業承継案件や大手のコングロマリットからのカーブアウト案件は引き続き堅調な一方で、昨今これまでにはそれほどメジャーではなかった案件にPEファンドが投資する例も増えてきた。

具体的には、これまでは大型案件中心であった外資系のラージキャップファンドも地方・中堅企業などへの投資を積極的にするようになってきた。従来カーライルは、おかしカンパニーやオリオンビールなど地方の中堅企業に投資してきたが、さらに近年は岩崎電気や東京特殊電線(現TOTOKU)に投資をしている。また、ベインキャピタルは、日本セーフティ―やトライステージ(現ストリートホールディングス)に投資をしている。このように、グローバルで数十兆円を運用するPEファンドが、3桁億円の買収案件にも積極的に関与するようになってきた。

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