水商売から「昼職へ転職したい」叶えるガチな現場 面談では「昼職なめんなよ」と怒ることも

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真剣に向き合う理由として、バーの経営者だった坪嶋さんをはじめ、昼jobは社員のほぼ100%がナイトワークの経験者のため、同志ということがあるのだ。だからこそ、ビジネスライクなやり取りではなく、ひざを突き合わせて本音でとことん対話をする。そこで築かれた関係性は深く、強いものになることが多いという。

転職が決まっても連絡を取り合うことも

「うちを通じて転職した子が、会社を辞めそうだったので、一緒に飲みに行ったんです。仕事への考え方とか、ここで挫折したらこうなっちゃうよ、みたいなことをひたすら語って、べろんべろんになるまで2人で飲みましたね。転職が決まっても連絡を取り合って、人生の友達みたいになる人もいっぱいいます。ある意味、それがうちのいいところかもしれませんね」

こんなエピソードもある。坪嶋さんの携帯に、夜中の3時半ころに鬼電があった。目を覚ました坪嶋さんが、何事かとかけ直したところ、「坪ちゃん、歌舞伎町で飲んでるんだけど、酔っぱらって帰れないから迎えに来て」と言われたのだそう。「『友達か!』って切ったこともありました」と振り返る坪嶋さんは楽しそうだ。

事業としての関わりも深ければ、昼jobは物理的な距離も歌舞伎町と近い。坪嶋さんは情報収集のため、職業を伏せてキャバクラなどに行くこともあるが、プライベートで飲みに行くほうが圧倒的に多い。よく行く歌舞伎町のバーには、多いと週5日は通っているという。

「立場が関係なく飲めるのが気持ちいいんですよね。相手が社長だとわかった瞬間に、急に丁寧になるとか、態度を変える人いるじゃないですか。それが嫌で、最初は身分を隠していたんです。でもそのバーでは、誰とも同じ人として付き合える。常連にはいろいろな職業の人がいて、風俗嬢も多いのですが、それで下に見たりマウントを取ったりする人なんていないんです」

昼job社長の坪嶋拓真さん
昼job社長の坪嶋拓真さん(撮影:今井康一)

昼jobの認知度が高まるにつれ、ナイトワーカーを採用したいという企業は着実に増えている。しかし、偏見を持たれるケースもまだまだ少なくないという。そうした中、誰であろうが何の仕事をしていようが、大抵のことは気にせず受け入れてくれる、懐の広い歌舞伎町のバーような世界を、昼jobは目指し続けているのだ。今後はナイトワーク以外にも、偏見を持たれがちな職業や属性の人たち向けに、「〇〇ジョブ」をいくつも立ち上げていく予定だという。

取材を終えて、昼jobのオフィスを見渡すと、ちょうど面談が行われていた。和やかだが、それでいて真剣な雰囲気が伝わってくる。これから、どんな転職物語が生まれるのだろう。次に取材に訪れたときは、さらに増えたたくさんのエピソードを、坪嶋さんはうれしそうに話してくれるに違いない。

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肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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