「パワードスーツ」の前に防衛省がすべきこと 新たに開発する必要がない理由<下>

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FELINシステムは1セット1000万円ほどになる

筆者は実際にFELINを装備し、本年のUAEで行れた見本市、IDEXでデモンストレーションを行っていたフランス外人部隊の最精鋭である第二2外人落下傘連隊の日本人隊員に話を聞いた。FELINのシステムは重く、彼らのような体力的に秀でたエリート部隊でないと現実的に運用できず、一般の部隊では極めて難しいだろういう話だった。

技本でも同様の将来歩兵システムは研究中だが、陸自が装備化する予定はない。また1セットの単価は大量に調達されているFELINでも1000万円程度はかかる。調達ペースがスローな陸自ならばその数倍になるだろう。

また小隊長や分隊長が装備する、ターゲットロケーターと呼ばれる暗視装置、ジャイロ、レーザーレンジファインダーなど兼ねネットワーク化された双眼鏡だけでも単価は1000万円程度する(海自は護衛艦の警戒監視用に仏タレス社製のソフィーを約200セット導入している。調達単価は約1000万円)。これまた日本製ともなれば1台3000万円にはなるだろう。

現実陸自では狙撃銃のスコープのポーチや、小銃用の光学照準器、タクティカルライトといった安価な装備すら支給しておらず、将来歩兵システムの導入など夢の夢という状態だ。

技本のパワードスーツは駆動時間が目標とされているバッテリーの稼働時間が2時間程度と、短いのも問題だ。バッテリーの駆動時間が短ければ、実際の運用は装甲車輛などをベースに活動しなければならない。ところが本来パワードスーツが必要なのは徒歩移動が多い空挺部隊や水陸両方部隊、山岳地帯など重い装甲車輛の運用が難しいシーンが多いので、パワードスーツの運用には向いていない。

かと言って、大量の電池を携行すると、パワードスーツのペイロードを喰われてしまう多数のバッテリーを携行するならば軽量のATV(汎地形車輛)やロッキード・マーチンの開発したSMSSなどの小型ロボット車輛、あるいはATVやロボット車輛とパワードスーツの組み合わせが有用だろう。これまたコストが掛かる。

民間開発のものを兵站用に使用するべき

技本で戦闘用のパワードスーツを開発しても、運用的にもコストの面でもあまり現実的とは言えない。むしろ自衛隊は既存の民間用に開発されたものを兵站用などとして採用すべきだ。

軍用パワードスーツは、歩兵部隊に随伴して重量貨物を運搬する目的が想定されているが、極めて高い耐久性、堅牢性、さらに耐水性や幅広い温度領域での長時間に渡る稼働が期待されるので技術的なハードルが高い。

そして単価も極めて高い。技本が開発するパワードスーツも先述のように製品化の際の調達単価は1000万円を目標としている。しかも現状では駆動用のバッテリーの駆動時間が数時間から半日程度であり、電源の確保の面からも制約が多い。このため近くに予備のバッテリーを搭載し、充電機能を持ったベースとなる運用支援用の車輌などがなければ、難しいなど問題点もある。

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