「命が大切」というのは正論。しかし、その犠牲になるのもここの住民なんです--飯舘村・菅野典雄村長
避難措置に伴う経済面、生活面、精神面、子どもへの影響など、大変に心配です。職場などは全部がらがらぽん。ほとんど倒産します。健康も悪化する、精神的にもおかしくなる。子供にも大きな影響を与えます。
よく考えてください。そういうリスクと、いまうちの村にいて、たとえば放射線を相対的に多く浴びる中にいて、実際に被害が出るリスク。天と地ほどの差があるのではないですか。
「命が大切」と言ったり書いたりしていれば、誰からも非難されない。しかし、その犠牲になるのはここの住民なんです。
なぜ、それを言ってくれないのでしょうか。「放射線濃度の高い地域だ」「なぜ、そんなところから避難させないんだ」という。あるいは、そこまで書かなくても「大変なところだ」という話ばかりです。農業、畜産から離れるリスクに目を向けてくれる人はいるのでしょうか。
もちろん、乳幼児、子どもや、あるいは、村の中でも放射線濃度の高い地域の人たちがそれでいい、ということではない。私たちは、それらの対策はすべてやっています。
震災後、村にいるのは少ない人数でしたが、その後、戻ってきています。今は、およそ8割の人たちが戻ってきている。そこで、子供たちは隣の町の学校までバスで送迎するという仕組みを組み立てましたが、今回の措置によって、子どもたちはまた、転校しなくてはならない。子どもたちをこんなに犠牲にして、何千人もの人たちを路頭に迷わせる。
これは、補償金がいくらという話ではないです。
全村避難が長期化すれば、村は完全に終わりです。この村は20数年前まで「冷害の村」「初霜が降った」「マイナス15度になった」と、そんな悪いことでしか紹介されなかった。