「社会にいいこと」で「稼ぐ力」を上げるESG投資 当たり前の手段で資本主義をアップデートする

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「外部経済性」と「超長期視点」はこれまで市場の仕組みにも、政府の仕組みにも、経済学や企業価値評価手法にも組み込まれてこなかった。今この瞬間に企業が儲けを最大化することが重視され、資源の限界はないものとして企業価値がプライシングされてきた。

それでも資本主義の初期はそれほど問題はなかった。しかし、地球に対して人間は大きくなりすぎた。人間の経済活動が地球環境に負の影響を及ぼしており、このまま拡大していけば時間的、空間的にもたない。

ESG/インパクト投資が、資本主義の枠組みに「外部経済性」と「超長期視点」をどう取り込むかといえば、2つの側面がある。

1つは、ESG/インパクト投資の測定インフラの向上だ。市場が企業価値をプライシングする際に用いる分析手法の標準化がグローバルで進んでいる。こちらは、よりよい企業を選んで投資するという上場株投資的な観点といえる。

国際標準化は急速に進んでおり、日本はこれにしっかりキャッチアップして、ガラパゴス化を避ける必要がある。

長期目線の投資家は気づいている

もう1つが、本稿で述べてきたような価値創造アクション(ESG/インパクトアクション)である、こちらは上場市場で短期的に株を売買する投資家ではなく、プライベートエクイティ(PE)ファンドやベンチャーキャピタル(VC)のように、未公開株に投資する投資家が主体だ。

本来、未公開株投資家は長期的な視点に立ち、積極的に投資先企業の経営改善を図ったうえで株を売却し、リターンを得る。そのような投資家がESG/インパクト投資に取り組み始め、大きな潮流を形成しつつある。

脱炭素やサプライチェーンマネジメント、環境配慮、人権配慮といった取り組みは、短期的には現金や利益を減らしても、そのような企業活動や経営判断をグローバルな標準手法で「見える化」し、ステークホルダーに発信すれば、長期的には企業価値が増大していくと気づいているからだ。

市場の仕組みに地球環境の限界という要素を織り込むESG/インパクト投資により、地球環境への負荷がより低い成⾧フロンティア(デジタル、フードテック、クリーンテック、ウェルビーイングなど)に、より多くの資源配分が行われていくことが重要である。

加藤 有治 GLIN Impact Capital パートナー

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かとう ゆうじ / Yuji Kato

1966年島根県松江市生まれ、岐阜県育ち。1988年京都大学理学部卒業、1990年経済学部卒業。1990年郵政省(現総務省)入省、経済協力開発機構(OECD、パリ)、モルガンスタンレー、メリルリンチ(ロンドン)、GE Healthcare事業開発アジア統括MD、Permira Advisers 日本オフィス代表、クールジャパン機構専務取締役、COO兼CIOを歴任。2014年以降、独立系投資会社のイースト・インベストメント・キャピタル(EIC)パートナー、2021年よりESGインパクト投資に特化したGLIN Impact Capitalのパートナー現任。イェール大学経営学修士(MBA、フルブライトスカラー)。著書に『日本買い 外資系M&Aの真実』(第11回M&AフォーラムRECOF奨励賞受賞)

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