「社会にいいこと」で「稼ぐ力」を上げるESG投資 当たり前の手段で資本主義をアップデートする
ここまで挙げた売り上げ増とコスト削減はともに利益の増大に結びつく話だが、実はESG/インパクト投資の一番大きなポジティブインパクトは、PERといった株価乗数の改善(Multiple uplift)ともいえる。
株価乗数は非財務情報を取り込み、最近は特にESG、人材、知財に大きく影響を受ける。これを具現化するのは市場圧力であり、ほぼすべての市場参加者が、ESGの正の影響を及ぼす圧力をかけ始めている。
例えば、冒頭でマスク氏が批判したS&P500ESGインデックスのような格付け機関がESGを選定基準にした株価指数に採用されれば、株価向上を期待できる。
なお、大手運用会社ブラックロックのCEOが「ESGという言葉は使わない」と発言したのは、ESGの言葉にいろいろな手垢がついたためであり、本来の趣旨を放棄するという意味ではないと理解している。
一方、インド財閥のアダニグループの不正会計を指摘して空売りを仕掛けるヘッジファンドの例があるように、市場は表面だけを取り繕うような取り組みを見抜く力も持っている。ESGへの取り組みは株価指標を、市場水準以上にも以下にも動かしえる時代なのだ。
経営判断においても、例えば、メーカーが製造拠点の立地を移すかどうか検討する時、一般的には製造・輸送コストの安い国を選ぶ。しかし、その国の環境への影響や輸送費の外部性などを考慮し、短期的コストの高さを許容して地産地消型の設備投資を選んだうえで、なぜそう判断したかを積極的に開示すれば、資本市場での評価はプラスになる。
資本主義に「地球環境の限界」を織り込む
ここまで(1)売り上げを増やす、(2)コストを削る、(3)株価を上げるという3つの観点から、ESGの取り組みにより企業価値が向上するプロセスをみてきた。
企業活動をESG/インパクトの観点で見直し、整理して発信することが、消費者や働き手、市場参加者の評価に結びつき、売り上げアップや人材確保、株価向上をもたらす。これらが実績として積み上げられていくはずである。
ともすれば、価値観やライフスタイルのトレンドに乗り、「ESG」の文脈でうまくアピールすれば評価されるように捉える向きもあるだろう。しかし、ESG/インパクト投資とは実は、資本主義をアップデートする大きなテーマである。
なぜなら、ESG/インパクト投資は「資本主義の失敗」として長らく議論されてきた「外部経済性」(企業の活動が市場の外で環境によい影響、または悪い影響を及ぼしても、企業は評価されたりコスト負担したりしないこと)と「超長期視点」の欠如に対し、新しい解決策を示すものだからだ。
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