法律も無意味「女性が出世できない国、ニッポン」 ジェンダーギャップ指数125位も驚きはない

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さらに、1985年に施行された男女雇用機会均等法は、昇進に関して女性を差別すること、あるいは性別に中立であるように見えるが結果的には差別となる基準を使用することを禁じている。だが、これらの法律は日常的に無視されており、執行を義務付けられている政府機関もない。被害者は時間とお金をかけて法廷で救済を求めなければならない。さらに悪いことに、このような場合、集団訴訟は利用できない。

このような訴訟でつねに企業の代理人を務めるある弁護士によると、同氏のクライアントは日常的に、職務内容に手を加えることで「同一労働同一賃金」の原則を回避し、実際には同一労働ではないと主張しているという。このような場合、裁判官はほぼつねに雇用主を支持する。また、苦情を受けて政府機関が法律違反を認定した場合でも、是正命令が出されるだけで罰則はない。

ちなみに、同じ差別禁止法が非正規労働者にも適用されるが、その場合も強制力はない。

男女雇用機会均等法の差別禁止条項への反動もあり、企業は「ママさんコース」と呼ばれる女性中心の「一般職」と男性中心の「総合職」の2つのコースを設けた。45歳になると、管理職の年収は一般職の2.5倍近くになる。

法律違反の罰則が必要だ

1992年の時点でも、日本では40%の企業が「女性の感性を最も活かせる仕事に女性を就かせる」という理由で、管理職制度を正当化することに何の恥ずかしさも感じていなかった。今日、このようなことを口に出して言う企業はほとんどないが、昇進に関する実績は、多くの企業がいまだにそのような態度をとっていることを示唆している。

解決策は、厚生労働省に法律違反の調査と罰則を義務付けることだ。日本には労働基準監督官がおり、個々の企業の慣行を調査している。しかし、ほとんどの場合、過剰な残業や残業代の未払いといった違反に焦点を当てている。同一労働同一賃金の問題は契約紛争であり、彼らの管轄外である。さらに、この問題を真剣に調査するには検査官の数が少なすぎる。

岸田首相が本気なのであれば、こうした検査官に給与や昇進に関する差別を調査するよう義務づけ、厚生省が違反した場合には厳しい罰金と公表によって罰則を科すようにするだろう。安倍元首相は「ウーマノミクス」の話をしながらも、この当然の措置を取ろうとしなかった。岸田首相が目標と対策を一致させた実績を見ても、これ以上の成果を期待する理由はあまりない。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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