「中国のモバイルインターネットの通信量は、2022年に1ユーザー当たり平均10%増加した。ところが、中国の3大通信事業者のARPU(1ユーザー当たりの平均売り上げ)の増加率は1%に届かなかった。その原因は、5G(第5世代移動通信)の特性を生かした(特別な魅力を持つ)キラーアプリがないことだ」
中国の工学・科学技術分野の最高研究機関、中国工程院のメンバー(院士)の鄔賀銓氏は、6月4日に開催された情報通信技術のフォーラムでそう率直に指摘した。
鄔氏によれば、中国国内の5G基地局数は2023年4月時点で273万3000基に上り、全世界の5G基地局数の約6割を占める。また、中国の5Gユーザーは6億3400万人に達しており、全世界の5Gユーザーの同じく約6割を占めている。
そんな「5G大国」にもかかわらず、中国の通信事業者の視点では、5Gは期待したほどの付加価値を生み出せていないのが実態だ。
「中国の携帯電話の普及率(訳注:契約数の総人口比)は120%を超え、すでに飽和状態にある。通信事業者の業績を見る限り、5Gの貢献はARPUが落ちないように下支えした程度だ」(鄔氏)
「5.5G」で産業用途を開拓へ
そんななか、行き詰まりを打開する切り札として鄔氏が期待するのが、5Gの通信規格を拡張して性能を高めた「5.5G」だ。RF(無線周波)性能の引き上げやソフトウェアの改良を通じて、通信速度を5Gの10倍に、通信遅延を10分の1にするとともに、測位の精度を大幅に高めることができるとされる。
5.5Gは次世代の6G(第6世代移動通信)に移行するまでの過渡的な技術だが、その高性能を生かすことで、産業用途やVR/AR(仮想現実/拡張現実)分野への幅広い応用が可能になる。
鄔氏の解説によれば、通信業界はもともと、5Gの普及とともにVR/ARやコネクテッドカー(訳注:インターネットに常時接続する自動車)の需要が立ち上がると予想していた。しかし現実には、関連プロダクトの完成度の未熟さや(法規整備などの)政策対応の遅れ、さらに5G自体の能力不足などが重なり、期待外れに終わったという。
「5Gの標準規格の策定時には、最初から産業向けの活用を意識していたものの、全体としては消費者向けアプリケーション中心のシステム設計が優先された。その結果、産業用途が求める高速大容量、低遅延、高信頼、高精度測位などの要件に応えきれなかった」
鄔氏はそう語り、5.5Gがこの問題を解決するとの見方を示した。
(財新記者:劉沛林)
※原文の配信は6月5日
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