中国の通信事業者「5Gの恩恵」期待外れの実態 キラーアプリなく、収益アップの貢献わずか

✎ 1〜 ✎ 1260 ✎ 1261 ✎ 1262 ✎ 最新
拡大
縮小
中国の5G基地局数は、世界全体の5G基地局数の約6割を占める(写真は中国の通信機器最大手、華為科技のウェブサイトより)

「中国のモバイルインターネットの通信量は、2022年に1ユーザー当たり平均10%増加した。ところが、中国の3大通信事業者のARPU(1ユーザー当たりの平均売り上げ)の増加率は1%に届かなかった。その原因は、5G(第5世代移動通信)の特性を生かした(特別な魅力を持つ)キラーアプリがないことだ」

中国の工学・科学技術分野の最高研究機関、中国工程院のメンバー(院士)の鄔賀銓氏は、6月4日に開催された情報通信技術のフォーラムでそう率直に指摘した。

鄔氏によれば、中国国内の5G基地局数は2023年4月時点で273万3000基に上り、全世界の5G基地局数の約6割を占める。また、中国の5Gユーザーは6億3400万人に達しており、全世界の5Gユーザーの同じく約6割を占めている。

そんな「5G大国」にもかかわらず、中国の通信事業者の視点では、5Gは期待したほどの付加価値を生み出せていないのが実態だ。

「中国の携帯電話の普及率(訳注:契約数の総人口比)は120%を超え、すでに飽和状態にある。通信事業者の業績を見る限り、5Gの貢献はARPUが落ちないように下支えした程度だ」(鄔氏)

「5.5G」で産業用途を開拓へ

そんななか、行き詰まりを打開する切り札として鄔氏が期待するのが、5Gの通信規格を拡張して性能を高めた「5.5G」だ。RF(無線周波)性能の引き上げやソフトウェアの改良を通じて、通信速度を5Gの10倍に、通信遅延を10分の1にするとともに、測位の精度を大幅に高めることができるとされる。

5.5Gは次世代の6G(第6世代移動通信)に移行するまでの過渡的な技術だが、その高性能を生かすことで、産業用途やVR/AR(仮想現実/拡張現実)分野への幅広い応用が可能になる。

鄔氏の解説によれば、通信業界はもともと、5Gの普及とともにVR/ARやコネクテッドカー(訳注:インターネットに常時接続する自動車)の需要が立ち上がると予想していた。しかし現実には、関連プロダクトの完成度の未熟さや(法規整備などの)政策対応の遅れ、さらに5G自体の能力不足などが重なり、期待外れに終わったという。

本記事は「財新」の提供記事です

「5Gの標準規格の策定時には、最初から産業向けの活用を意識していたものの、全体としては消費者向けアプリケーション中心のシステム設計が優先された。その結果、産業用途が求める高速大容量、低遅延、高信頼、高精度測位などの要件に応えきれなかった」

鄔氏はそう語り、5.5Gがこの問題を解決するとの見方を示した。

(財新記者:劉沛林)
※原文の配信は6月5日

財新 Biz&Tech

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ザイシン ビズアンドテック

中国の独立系メディア「財新」は専門記者が独自に取材した経済、産業やテクノロジーに関するリポートを毎日配信している。そのなかから、日本のビジネスパーソンが読むべき記事を厳選。中国ビジネスの最前線、イノベーションの最先端を日本語でお届けする。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT