京都市から若者と子育て世代が離れていく理由 インバウンド誘致に奔走も市民の流出止まらず

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問題は、その進路先である。京都大学、同志社大学、立命館大学といった主要大学の卒業生のうち、京都の企業、自治体などに就職する学生はほんの一握りにとどまっているのだ。

立命館大学が公開している2022年春卒業生の本社所在地別就職者数を見ると、5063人中、京都府内はわずか395人(7.8%)しかいない。東京都は2315人(46%)、大阪府909人(18%)。つまり、就職者の64%が東京、大阪の企業に集中しているのが現実だ。

これは同志社大学も同じである。2021年9月、2022年3月卒業・修了生5057人の就職先で、京都府は403人(8.0%)。もっとも多い東京都は2507人(49.6%)で、次が大阪府の971人(19.2%)。ほぼ7割が東京、大阪の会社を選んでいるのだ。

同志社大学の卒業生・修了生が京都府の企業に就職するのは1割にも満たない(筆者撮影)

京都市が打ち出した数々の対策

もちろん、人口減の現状を前に京都市だって手をこまねいているわけではない。4月の定例会見で門川市長は、全国初の市営住宅の空き住戸を若者・子育て向け住宅に活用する施策について触れ、こう言及した。

「『若者・子育て世帯の「京都に住むっ!」を「ヒタすら、ヒタむき」に応援しますっ!』ということで、政策をまとめました。京都市では、若い世代、特に結婚・子育て期や就職期の転出が浮き彫りになっております。これを市内で受け止めるとともに、若い世代に選ばれる都市に向け、居住環境や働く場の創出、住宅の流通促進、企業立地の推進、学生等の市内企業への就職促進、あるいは教育・子育て環境の更なる充実など、都市の成長戦略につながる施策を、総力を挙げ、今、一気呵成に推進しております」(京都市のHPより)

また、これまで市内の建物の高さや容積率を厳しく規制してきた景観規制を緩和した新たな都市計画を制定し、4月25日から施行した。JR京都駅南側や市の東部(山科区)など複数のエリアで建物の高さや容積率を緩和する内容で、企業誘致や子育て世帯の流出防止を目的としている(町家などが残る市内中心部の通称「田の字エリア」は変更しない)。

市営住宅を活用した若者・子育て世代向け住宅政策や、新たな都市計画実施と矢継ぎ早に対策を講じ始めている。しかし、建物の規制緩和がさらなる地価上昇、マンション価格高騰に向かう懸念も指摘されている。

また、商業施設やアート関連施設の誘致、拡充計画が報じられているが、ハコモノ中心の再開発にとどまらず、京都が培ってきた技術や伝統、ソフト、そしてマンパワーを生かした街づくり政策につながっていくだろうか。

都市計画見直しにあたっての意見公募には「大学はたくさんあるのに、そのまま京都に住む人が少ないのは企業が少ないから。京都に住みたいと思うような若者に目を向けたまちに」とある。

「創造だけになってもダメ。創造で生み出した活力を、京都らしい要素を守ることにつなげていくことが大事」といった意見が寄せられていた。街で暮らす市民の間からは「インバウンドはもういい。日々の暮らしを守ってほしい」という切実な声も出ている。

この10年ほどの間、市はインバウンド誘致に奔走した。その結果、観光客は大幅に増えたが、今度は市民が「京都離れ」を起こしてしまった。子育て世代や若者世代の流出を食い止めなければ、10年後、20年後、人口も子どもの数も減り続けていくおそれがある。1200年の歴史をもつ古都が、住民の街であり続けられるのかどうか。今まさに正念場を迎えているといってもいいだろう。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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