すでに1980年に日本の自動車生産台数は世界一になっており、1980年代後半のバブル景気に沸くユーザーにとって、あるいはメーカーサイドにとっても、“Sクラス”を持ち合わせていないという現実は痛痒であったろう。
他方では、日本メーカーの実用小型車のコストパフォーマンスは群を抜いていたから、アメリカ市場を食い荒らす日本車が外交問題にまで発展し、日本が輸出台数を自主的に規制するという事態にまで至った。各社が台当たり利益の大きい高価格車に次のターゲットを定めたのは必然であったといえる。
セルシオのボディサイズは4995×1820×1400mm。当時のクラウンのラインナップで主流だった5ナンバー車よりも全長で305mm、全幅で125mmも大きかった。むろん大きいだけではなく、開発費と生産コストをふんだんにつぎ込み、部品一つひとつの設計と精度にこだわった。
それに伴い生産技術も格段に高いレベルが求められ、これらはその後のトヨタ車全般に大きな影響を与えたといわれる。もっと安価なモデルの性能や生産品質の向上にも一役買ったのである。
ライバルはこぞって分解して秘密を探った
初代セルシオの一番の特徴は、圧倒的な静粛性だ。エンジン自体の騒音を徹底的に抑え込み、室内との隔壁には高性能な遮音材をたっぷり貼り込む。ワイパーとガラスの摩擦音にまで気を配ったともいわれている。
Sクラスだけでなくロールスロイスやジャガー、キャデラックといった高級車メーカーをも震撼させたほどだった。多くのメーカーがセルシオ(レクサスLS)を購入し、分解して静粛性の秘密を探ったといわれる。
静粛性を左右するエンジンは、A・B・C各グレード共通の1UZ-FE型V8 32バルブDOHC3968ccで最高出力260ps。高回転域までスムーズさを失わず静粛性に大いに貢献するとともに、1700kg前後(グレードによる)の車体を十分に速く走らせることができた。
前後ともダブルウィッシュボーン式のサスペンションもよく練り上げられたもので、A・B仕様はコイルスプリングだったが、B仕様のダンパーには世界初となる路面状況によって減衰力を瞬時に変える「ピエゾTEMS」が装備された。最上級グレードのC仕様では、乗り心地をさらにスムーズに保つエアサスペンションを標準装備。このC仕様がもっとも売れたという。