作家・村上龍が語る「自由、希望、セックスを厭うな」 最新刊『ユーチューバー』に込められた秘密
――矢﨑はユーチューブを毎晩のように見ていた時期があると書かれています。ご自身もそうだったのですか?
村上:ユーチューブの面白さの一つはその圧倒的なアーカイブです。たとえば本書でも触れているハナ・マンドリコワという女子テニス選手がいました。チェコ人で、全盛期にはクリス・エバートやマルチナ・ナブラチロワにも勝っている。でもむらっ気があって、強いときはどんな相手にも簡単に勝ってしまうのですが、やる気がないときは下位の選手にも敗れるという選手でした。
1986年の全仏大会のQF(クォーターファイナル=準々決勝)、彼女がシュテフィ・グラフと対戦したゲームがユーチューブに上げられています。他にもハナのゲームはたくさんアップされていますが、1986年の全仏QFはぼく自身が現地で見た特別な試合でした。すごいゲームで、しかも美しかった。2人ともバックハンドは片手打ちで、シュテフィ・グラフのスライス、ハナのトップスピンは見ていてほれぼれするものでした。
ぼくは1986年にテニスのグランドスラム(四大大会)を全部回っていて、他にも当時見た試合がたくさんユーチューブにアップされています。テニスだけでも大量のビデオがアップされていて、サッカー、ボクシング、バスケット、野球などきりがないです。スポーツだけでもすごい数があり、映画や音楽に至ってはそれこそきりがありません。
でも、ある日、飽きるときが来ます。なぜか見なくなるんです。それが“過去”だからだと思います。それがぼくにとっての、ユーチューブの特徴です。
矢﨑が女性に不自由しなかった理由とは
――ほとんどの読者は「矢﨑健介=村上龍」と思うでしょう。本書を「村上龍の女性遍歴」と受け取られることに抵抗はありませんでしたか?
村上:そう受け取っている人は、作家に騙されているんです。ぼくは「騙す」ことに関してはほとんど天才的ですので、わからないのかもしれません。赤裸々に語っているように見えても、それは作家の技術です。本当のことも含まれていますが、どこが本当か、わからないはずです。ただし、嘘99%のシークエンスでも、本当のことが1%ほど含まれていたりします。
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