作家・村上龍が語る「自由、希望、セックスを厭うな」 最新刊『ユーチューバー』に込められた秘密
――矢﨑をユーチューブに引っ張り出した「世界一もてない男」も指摘するように、矢﨑は作家になる前から女性にもてていますね。「女はいたけど、もてたという感じじゃなかった」と返していますが、無名の青年だった頃から「女はいた」、つまり女性に不自由しなかったのはなぜでしょうか?
村上:矢﨑が女性に不自由しなかったのは、「そういう男だったから」と言うしかありません。ただ、「女性を選ばなかったから」ということは言えると思います。自分を好きになってくれる女性を選んでいたんです。
――彼が18歳のとき出会った「家具デザイナーの女性」は前作『MISSING 失われているもの』にも登場するキーパーソンです。「彼女と結婚してたら小説を書かなかったかもしれない」「彼女の喪失感だけで小説を書いてきた」という言葉の意味を教えてください。
村上:意味は言葉通りですよ。矢﨑が人生の中で結婚したいと思った相手は、彼女だけなんでしょうね。これらの言葉は「家具デザイナーの女性」の存在感を際立たせ、彼女の存在が矢﨑の小説に強い影響を与えたという印象をもたらします。
小説の感想は聞きたくない
――ヨウコは矢﨑のことを「用事がない生き方をする人」と表現し、矢﨑本人も「おれは、自由なんだ」と言います。村上先生も「おれは自由だ」と思っているでしょうか? だとしたら「自由に生きてきた」ことを振り返り、どう感じていらっしゃいますか?
村上:ぼくは「自分は自由だ」とは思っていません。そう思っている人がいたら、頭がおかしいのではないでしょうか。自由という概念は、自分ではわかりません。ただし、他の人は正しく「彼は自由だ」とわかります。
――本書で読者に最も伝えたかったことは何ですか?
村上:「自由」「希望」「セックス」について考えてみてほしいということです。
――矢﨑はアップしたユーチューブの「感想を聞きたくない」と言いますが、村上先生にも本書の「感想を聞きたくない」気持ちはありますか? 担当編集者によると「女性にも好評」だそうですが、そう聞いてどう思いますか?
村上:ぼくは自分の小説の感想を聞くのが嫌いなんです。(デビュー作の)『限りなく透明に近いブルー』から、そうです。「女性にも好評」と聞くと嬉しいです。でも、感想を話し始めたらイヤになってしまうと思います。
(インタビュー・構成 伊藤和弘)
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