最高額の落札者が最も損しても不思議じゃない訳 実際の価値よりもはるかに高く見積もってしまう

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「勝者の不幸?」

「そうだよね、シヒョンは勝者なのに、いちばん損してる! たしかに勝者の不幸だ!」

ソナとジェヨンが言った。

 

「そうですね、シヒョンは勝者なのに、クリップを数えてみたら、逆に損してしまいましたね。こういうことが実際にも起こります。以前、一山(イルサン)湖公園にある7坪の小さな売店を1年間経営する権利が競売にかけられたことがありました。結果的に8600万円で落札されたわ」とナ先生。

「本当ですか? 1年間の売り上げがそんなにありそうな場所なんですか?」

全員驚いた表情だった。

「ビンの中からクリップを取り出して数えることができなかったように、湖公園の売店の1年間の売り上げも確実にはわからなかったのよ」とナ先生が言った。

楽観的に高く評価すれば損する確率も高くなる

「どうしてそういうことが起こると思いますか? 外国では、ある土地の石油を試掘する権利を競売にかけることもありますが、その場合も、その土地からどれだけの石油を採掘できるかは誰もわかりません。正確な生産量がわからない状態で、自分なりに価値を推定して入札するんです」とナ先生。

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「だとしたら、その土地の実際の価値は、何人かが考える価値の平均になる可能性が高そうですね! でも、その土地の価値を最も高く評価した人が落札するから、勝者の不幸も生まれそうです」

ジェヨンがせっせとメモを取りながら言った。

「ジェヨン、とてもよく理解できてるわね。では、みんながビンを買うために書き出した価値の平均がいくらなのかも、確認してみましょうか?」

ナ先生は1枚ずつ入札用紙を見ながら、黒板に書き出していった。

「200円、500円、100円、800円、300円、200円、400円、平均を出してみると……」

「うわ、ほんとに380円に近い! ジェヨンの言ったとおりですね。実際には、みんなの考えた平均的な価値である可能性が高いけれど、その価値を最も高く評価した人が落札するから、勝者の不幸が起こるわけですね!」

今度はジェジュンが授業の内容をまとめた。

ナ先生が言った。

「うまくまとめてくれましたね。みんなはほしいものの平均価値をきちんと判断して『勝者の不幸』を避けていってください! では、今日はこの辺で終わりにしましょう!」

キム・ナヨン 韓国・ソウルのヤンジャン中学校社会科教師

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Kim Nayoung

梨花女子大学で社会科教育を専攻し、同大学院で経済教育修士、行動社会経済学博士課程を修了。韓国開発研究院(KDI)、企画財政部、金融監督院、教育部、韓国教育開発院(KEDI)などいくつもの機関で経済・金融教育資料の開発および教材の執筆に参加し、2015改訂教育課程の社会科評価基準の開発研究を進めるなど、教育課程関連の研究にも参加している。2009年、中学の時に必ず知っておきたい経済理論をやさしく面白く体得できるよう、経済勉強サークル「実験経済部」を作った。

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