コロナで中止、元高校球児が挑む「あの夏の再現」 アントレプレナーシップ学部で育つ学生を取材

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大武さんは、当初海外で学ぶことを考えていた。しかし思案中にふとした出会いでアントレプレナーシップ学部のことを知る。

「甲子園がなくなったときに、若者の声が届かない無力さを感じました。そして、社長のような力がある人が発する一言で社会を変えられるんじゃないかと思ったのです。ここには社会での実践者しか揃っていない。実経営者にさまざまなことを教わったほうが絶対に成長できるのではと感じて、入学を決めました」(大武さん)

高校時代から起業していた板本さんは、「起業について体系的に学べて深めることができる学校がそもそもなかった。本学はとても目立ったし、自分のやりたいことができると入学した」と話す。

「自分で何かをしてみたい、ここには何かがあるかもしれない。そう感じて入学した学生がほとんど」と、伊藤氏は話す。社会に対しての憤りや疑問、改善したいという情熱や意欲を持って飛び込んできているようにも映る。学生たちは入学後「こんなに自分について考えたことがなかった」「教えられる、聞くではなく、双方向にフラットに話すことができる関係なのがうれしい」という。

「自分とは? 自分のやりたいことは? と突き詰めてこんなに考える機会がなかった。考えれば考えるほど自分とは何者かがわかるように。そのことがとても楽しいと感じている」と、西野さんは口にする。

失敗を恐れず行動できる人材を

一般的には、3年次に進学すると学生は就職を視野に入れ始める。当然ながら、アントレプレナーシップ学部では、起業を目指す学生もいる。

話を聞いた3人は「仮に企業に属するとしても、起業することになっても、自分の軸を大切にしたいなと思っている」と話す一方で、「今の事業を続けていきたい」と強い意志を持つ意見も。見据える未来はさまざまだ。

社会の第一線で活躍する講師が勤務する職場に学生が訪問することも(写真:武蔵野大学提供)

アントレプレナーシップ学部の学生の将来について、伊藤氏はこう話す。

「起業が必ずしもゴールではない。最終的には起業しても起業しなくてもよいのです。我々は起業家を作るのではない。“高い志と倫理感に基づき、失敗を恐れずに行動をすること”で、“新たな価値を創造していく”。このアントレプレナーシップ精神を醸成することにこだわっている。社会を作っていくための新しい価値を1%でも生み出せる人間になってほしい」

伊藤氏は本学に限らずに、日本の未来を杞憂している。若者が自らの力で考え、行動し、切り開いていく力を身につけたとき、社会がより高速度でかつ濃密な議論が飛び交うようになり、ひいては日本経済や産業の進化へとつながると語った。1つの学部にて本格スタートした体制は、今後日本全体に必要とされていくだろう。

永見 薫 ライター

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ながみ かおる / Kaoru Nagami

1982年生まれ。兵庫県出身、東京都在住。大妻女子大学比較文化学部比較文化学科卒業。中国と日本の女性史を中心に比較文化学を学ぶ。複数の企業勤務を経て2014年よりライター。主な執筆テーマは在学中より関心の高かったジェンダーや多様性のほか、働き方、子育て、まちづくり。1児の母。Twitter:kao_ngm

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