名だたる企業が「アンケート調査」に大失敗する訳 あのマクドナルドでも苦戦してきた

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ちなみに日本マクドナルドでも、2006年にマーケティングを基にヘルシーな「サラダマック」を発売し、失敗に終わった経緯があります。

これは行動経済学を基に考えてみると簡単に納得できる結果です。「人は時間がないとき、疲れているときなどにシステム1に頼って意思決定をする」傾向があります。では人がマクドナルドに行くときはどうでしょうか? 日本ではどうかわかりませんが、特にドライブスルーが売上のほとんどを占めるアメリカでは、「忙しいとき、または疲れているとき」に行くことが多いのです。

つまり、顧客がマクドナルドで注文する際は、「しっかりと健康を考えて注文する」のではなく「なんとなくぱっと見て決める」という「システム1」の意思決定がなされている――。

消費者自身も「買う理由」を言語化できない

一方、人がアンケートに答えるときはどうでしょうか。記入式であれ口頭であれ、調査対象者はじっくり考えて「システム2」で答えます。人は「システム2」が働くと、「〇〇するべきだ」という合理的でかつ理想的な行動を頭に置いて回答する傾向があるのです。

このギャップのせいで、行動経済学の知見なしでのアンケートでは消費者の本当の深層心理を引き出すことは難しいのです。このギャップを回避するには、システム1でものを買う消費者を理解しようと思ったら、やはり会議室の議論も、顧客理解も、システム1の観点から考えるべきなのです。

最近はマクドナルドも、顧客がどうシステム1でメニューを見て意思決定しているかを行動経済学を取り入れ始め、模索しています。

また、多くの消費者が実際商品を購入・使用するときの状況と、アンケートに答えるときの状況もかなり違います。

基本的に、アンケートによる定量調査(アンケートの結果を数値化し、データ分析する調査)はこのジレンマにぶち当たってしまうため、消費者がなぜ商品を購入し、どう使用するかを理解するには限界があります。「消費者がその商品やサービスを買う理由は、その消費者自身もなかなか言語化できない」。このことを前提として認識する必要があります。

一方で、定性調査(対面して聞き取る調査)であれば、もっと細かいニュアンスが理解できるでしょう。しかしながら、こちらも消費者が答えていることをただ単に鵜呑みにしてはいけません。

「なぜ我が社の商品を購入しましたか?」

こう聞いたとき相手が「品質が高くデザインも良いから」と答えたとしても、それは調査の場で考えた限りの回答だったりします。ちょっと見栄を張って賢そうな購入理由を述べることもありますし、質問者の顔色を見て「つい、相手が喜びそうな回答をしてしまう」というケースも珍しくありません。

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