父親への怒りが大きすぎたのでは? と尋ねたところ、怒りとは少し違う感情だったといいます。
「腹が立つというか、(異母きょうだいのことを)知るまでの20年間、ずっと父のことはなんとなく『同じ敵を持つ仲間だ』みたいな感情だったので、その全体が崩れてしまった。異母きょうだいがいた事実にショックを受けたというよりは、父がそんな巨大なうそをついていたことに対する悲しい気持ち。家族ってなんだろう? 信じてたものってなんだろう? という感じです」
その後、父と会ったのは1度きり
その後、父親と会ったのは一度きりです。就職が決まったお祝いで、いっしょに食事に行ったのですが、芽衣さんは何も知らないふりをしつつ「この人はいま、どういう感情で自分と会っているんだろう?」と、ずっと考えてしまったそう。
「(父の不倫を知っても)母への同情はまったくないです。私が小さい頃から父は離婚したがっていたのに、母は子どもをタテマエに離婚に応じなかったですし、何より私にずっときつく当たってきたことを今でも許せていないので。若干自業自得、と言ったらひどいですが、『もっと早めに手を打っておけばよかったじゃん』とは思います」
母親とも、就職して家を出てからは一度も会っていません。しつこく連絡を受けたこともありましたが、「もう連絡をとるつもりはないので、放っておいてほしい」とはっきり伝えてからは「実害はない」といいます。
「ただ、最近また電話がかかってきて。『ずっと追いかけられるのか』みたいな気持ちもあります。『母が死ぬまで、怯えて暮らさなきゃいけないのかな』と。母に対しては『かかわらないでほしい』っていう気持ちが強いですね」
父に対しては「別にどうでもいい」とのこと。かかわってもいい? と筆者が尋ねると、否定はしなかったものの、
「でも、いまさらどうかかわるんですかね。謝ってほしいとは、まったく思っていないです。ただ、一生罪悪感を抱えて生きてほしいな、とは思います」
芽衣さんが謝ってほしいと思わなくても、父親は芽衣さんと姉に、全身全霊で謝らなければならないだろうと筆者は思います。
冒頭にも書いたように、芽衣さんの心はいまも満たされることがありません。
「行きたい学校にも行けたし、就活も第一希望に運よく決まって、友達もたくさんいるし、いろいろ『恵まれてるな』とは思うんですよね。自分で言うのも変ですが、苦労していろいろ手に入れてきたと思う。
でも、実感がないんです。自分が本当に欲しいものが、いつまでも手に入れられていない感じがする。失敗しても誰かが見てくれる、みたいなものが私はないから、たぶん安心していないんですよね」
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